特定支出控除で認められる支出は?必要書類や手続き方法を解説!

青木征爾税理士事務所
監修者
青木征爾税理士事務所 税理士 青木征爾
最終更新日:2024年05月27日
特定支出控除で認められる支出は?必要書類や手続き方法を解説!
この記事で解決できるお悩み
  • 特定支出控除とは?
  • 特定支出控除で認められる支出は?
  • 特定支出控除の申請方法は?

給与所得者であれば「特定支出控除とはどんなもの?」「どんな支出が該当する?」などの疑問を持つことがあるかもしれません。

特定支出控除は給与所得を圧縮し節税に役立つ場合があるため、自分が特定支出控除の適用を受けられるか判断することは重要です。この記事では特定支出控除と認められる支出や手続き方法を解説するため、業務上の経費を多く支払った給与所得者の方はぜひ参考にしてください。

確定申告の依頼にお困りではありませんか?

もしも今現在、

  • 信頼できる税理士に依頼したい
  • 自身の状況に合わせた税務アドバイスがほしい
  • 税理士の費用相場がわからない

上記のようなお困りがありましたら、比較ビズへお気軽にご相談ください。比較ビズでは、複数の税理士・公認会計士に一括で見積もりができ、相場感や各社の特色を把握したうえで業者を選定できます。見積もりしたからといって、必ずしも契約する必要はありません。まずはお気軽にご利用ください。

確定申告に対応できる業者を一覧から探す

特定支出控除とは特定支出を所得から差し引ける制度

確定申告

特定支出控除とは、国税庁によって認められた特定支出を所得から差し引ける制度です。給与所得者にのみ認められている制度であり、業務に関係する支出が多かった場合に活用できます。

給与所得者は個人事業主や法人と異なり、業務関連費を個別に経費として計上し、所得から控除することが認められていません。そのため、給与所得者には収入に応じた給与所得控除が自動的に適用されています。

しかし、実際の業務関連支出が控除額を超える場合、特別支出控除を利用することが可能です。給与所得者も確定申告をすることで、会社から支給されていない特定支出を経費として計上できます。

2014年の税制改正により対象は拡大

特定支出控除は、2014年の税制改正により対象が拡大し、より利用しやすくなりました。特定支出控除は要件が厳しく、利用できるケースが限られていましたが、現在では対象となる費用が拡大されています。

たとえば、税理士や公認会計士になるための資格取得費や業務に関係する図書費、衣服費、交通費が特定支出控除の対象です。加えて、改正前は特定支出の合計が給与所得控除を超えなければ制度が適用されませんでしたが、改正後は給与所得控除の半分を超える場合に適用されます。

特定支出控除で認められる特定支出7つ

特定支出控除で認められる「特定支出」には以下の7つが該当します。

  1. 通勤費
  2. 旅費
  3. 転居費
  4. 研修費
  5. 資格取得費
  6. 帰宅旅費
  7. 勤務必要経費

特定支出に該当していても、企業や教育訓練給付金から一部補填されている場合、補填部分は特定支出に含まれない点に注意が必要です。

1. 通勤費

特定支出として認められるのは、会社に通勤するために支払った費用のうち、会社から支給されない通勤費です。

主に次の費用が挙げられます。

  • 電車や新幹線を利用して通勤するための交通費
  • 車通勤のためのガソリン代
  • 高速料金
  • 車の修理代

会社から補填されない通勤費は特定支出ですが、航空機での通勤による支出は一般的に認められません。グリーン車や座席のグレードアップなどは特定支出から除外されるため注意しましょう。

特定支出と認められるためには、会社からもっとも経済的かつ合理的な通勤ルートと認められなければなりません。

2. 旅費

会社から命じられた出張で支払った旅費は、特定支出として認められます。主に移動にかかる費用が特定支出と認められ、以下の支出が該当するでしょう。

  • 運賃
  • ガソリン代
  • 高速料金
  • 自動車の修理代

支出が経費となり会社が負担したケースでは、特定支出と認められません。一律で出張費が決まっている場合は、補填されない部分の金額を申請できます。

通勤費と同様、どのような交通手段でも特定支出が認められるわけではなく、会社からもっとも経済的かつ合理的な移動ルートであると認められていることが条件です。

3. 転居費

転勤に伴う費用は、転居費として特定支出に該当します。主な転居費の例は、次のとおりです。

  • 交通機関の運賃
  • ガソリン代
  • 有料道路の料金
  • 宿泊費
  • 引越しの運送費
  • 運送中の損害保険料

転任の日から1年以内の、通常必要と思われる費用は特定支出が認められます。引越しの際、部屋の模様替えや家具購入に費用がかかっても、転居のための支出ではないため、特定支出には含まれないことに注意しましょう。

4. 研修費

特定支出と認められる支出には、研修費が含まれます。職務に必要な技術・知識を習得することを目的とした研修に支払った費用は特定支出です。

研修は、第三者からの訓練や講習によって技術や知識を習得する、受動的な行為のことです。資格を取得する目的の訓練・講習は、研修費に含まれません。受講のための交通費も特定支出の対象となりえますが、給与所得者が個人的に支払った費用のみ認められます。

5. 資格取得費

業務に必要な資格を取得するための費用は、特定支出に該当します。技術や知識を習得する目的の研修費と、資格取得を目的とする資格取得費は、特定支出のカテゴリーが異なるため注意しましょう。

資格取得費を特定支出に含めるためには、資格が業務に必要であると会社から認定してもらう必要があります。税制改正により、改正前には対象外の資格であった医師や弁護士も特定支出の対象になりました。結果的に資格取得に失敗しても、支払った費用は特定支出の対象となります。

6. 帰宅旅費

単身赴任の給与所得者が、配偶者や生計をともにする家族と離れて暮らしている場合、帰宅のための旅費が特定支出に含まれます。単身赴任先から自宅に帰るための公共交通機関の運賃や自動車移動にかかる費用が対象です。

帰宅旅費の定義は「当人が勤務する場所」を起点とします。たとえば東京に家族が居住し、当人が福岡で勤務していれば「福岡・東京間の交通費」が帰宅旅費です。ただし、1年間に4往復を超えると特定支出と認められなくなる点に注意が必要です。

7. 勤務必要経費

図書費・衣服費・交際費など、当人の業務に必要であると会社から証明された費用は特定支出の対象です。最大65万円の範囲内に限り勤務必要経費と認められます。勤務必要経費となる支出の詳しい内容は以下のとおりです。

図書費 専門書や特定分野を扱う新聞・雑誌、職務遂行の参考になる図書が対象
衣服費 制服・事務服・作業服など、勤務場所での着用が必要な衣服が対象
交際費 給与支払者(勤務先)の得意先・仕入先など、職務上関係ある方に対する接待・贈答が対象

図書費・衣服費・交際費は勤務必要経費としてまとめて扱われますが、特定支出の証明書は費用ごとに必要です。特定支出の申告を行う際には、購入品ごとに経費を管理しましょう。

特定支出控除額の計算シミュレーション

特定支出控除額の計算は以下の式で行います。

  • 特定支出控除額=特定支出の合計金額−給与所得控除額の2分の1

給与所得控除額は該当する方の年収に応じ、以下の表に当てはめて計算します。

給与等の収入金額 給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円
1.625,001円から1,800,000円まで 収入金額×40%−100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで 収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで 収入金額×20%+440,000円
6.600.001円から8,500,000円まで 収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上 1,950,000円

参照:No.1410 給与所得控除

たとえば、ある給与所得者の収入金額が400万円、特定支出が70万円だったとしましょう。給与所得控除は上記の表から、400万円×20%+44万円=124万円です。給与所得控除の2分の1は62万円であるため、特定支出控除は70万円-62万円=8万円となります。

確定申告することで給与所得控除だけではなく、特定支出控除も所得から差し引くことができるのがポイントです。

特定支出控除申請手続きの手順

電卓

特定支出控除申請手続きの手順は以下のとおりです。

  1. 必要な書類を用意する
  2. 特定支出に関する証明書を作成・提出する
  3. 特定支出に関する明細書を作成する
  4. 確定申告書を作成して申告する

確定申告の前に特定支出に関する証明書や明細書を作成しなければなりません。やや手間がかかるため、時間に余裕を持って準備を始めましょう。

1. 必要な書類を用意する

特定支出控除申請に必要な書類を用意します。必要書類は以下のとおりです。

  • 特定支出に該当する費用を支払った証明となる領収書・レシートなど
  • 特定支出に関する証明書
  • 特定支出に関する明細書
  • 源泉徴収票
  • 確定申告書

支出を証明する領収書やレシートは、しっかり保管しておかなければなりません。領収書やレシートを確定申告書に添付することが特定支出控除を受ける条件です。領収書やレシートを紛失した場合には控除が受けられません。

1,000円未満の公共交通機関の支払いは、レシートや領収書が不要ですが「金額」「利用した日付」「支払先」は記録する必要があります。

2. 特定支出に関する証明書を作成・提出する

必要書類を揃えたあとは、領収書・レシートを参照しながら「特定支出に関する証明書」に必要事項を記入します。

特定支出に関する証明書は、国税庁ホームページ「給与所得者の特定支出に関する証明書」からダウンロード可能です。特定支出の種類によって使用すべき証明書が異なるため注意しましょう。

作成した証明書は、勤務先の会社に提出します。特定支出控除の適用を受けるためには、条件を満たしていると会社に証明してもらう必要があるためです。確定申告の期間である該当年の翌年2月16日から3月15日に間にあうよう、時間に余裕をもって提出しましょう。

3. 特定支出に関する明細書を作成する

会社から認められた証明書をもとに、特定支出の個別費用を「特定支出に関する明細書」に記入します。特定支出に関する明細書をダウンロードして準備しておきましょう。

4. 確定申告書を作成して申告する

特定支出に関する証明書・申請書、源泉徴収票を参照しながら「確定申告書」を作成します。確定申告を作成後、必要書類とともに税務署に提出しましょう。

特定支出控除が認められると「所得金額」が変更になる点に注意が必要です。確定申告書の「所得金額等」にある「給与」が変わるため、所得税・復興特別所得税の再計算をしなければなりません。納付済みの源泉徴収税との差額が発生する場合には「還付される税金」に金額を記入します。

特定支出控除の注意点3つ

特定支出控除を受ける際には、以下の3つの点に注意しましょう。

  • 必要書類がすべて揃わなければ適用されない
  • 電子書籍の閲覧用端末の購入費用は対象外となる
  • 交通料金が15,000円以上の場合証明書の取得が必要になる

場合によっては特定支出控除が認められなくなるため、3つの注意点をしっかり押さえておきましょう。

必要書類がすべて揃わなければ適用されない

特定支出控除の申告をする際、すべての必要書類が手元に揃っていることを確認しましょう。不足書類があると、申請が受理されない可能性があります。

明細書や領収書など、申請に必要な書類は紛失がないよう慎重な管理が必要です。企業から受けた証明書も提出が求められるため、作成にかかる時間を見越して準備を開始しましょう。

電子書籍の閲覧用端末の購入費用は対象外となる

業務のための支出であっても、電子書籍の閲覧用端末購入費用は対象になりません。電子書籍を購入した場合は、図書費用と認められます。新聞関係の有料アプリをダウンロードするケースでも、月額料金が特定支出になるでしょう。

一方、電子書籍を読むためのタブレット購入費用は特定支出の対象になりません。特定支出と認められる範囲を確認してから購入を検討しましょう。

交通料金が15,000円以上の場合証明書の取得が必要になる

1つの交通機関の運賃・料金が15,000円以上になる場合、特定支出とするためには毎回「搭乗・乗車・乗船に関する証明の依頼書」を取得する必要があります。

「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」の作成は、船舶のチケットカウンターや電車の降車駅にある精算所などで行いましょう。搭乗券とともに証明書を提示して記載してもらう必要があるため、移動時は事前に証明書を用意しておく必要があります。

特定支出控除が使えないと言われる理由3つ

スーツ_バツ

特定支出控除は給与所得者にとって所得額を圧縮できる節税対策の1つですが、あまり利用者がいないのが現実です。理由は主に3つあります。

  1. 経費が自己負担となるケースが少ない
  2. 自己負担の経費を会社に証明してもらわなければならない
  3. 適用を受ける経費の金額が高い

特定支出控除の利用を考えている方は、これらの理由を知っておくといいでしょう。

1. 経費が自己負担となるケースが少ない

特定支出控除が使えないといわれる大きな理由の1つは、経費を給与所得者が負担するケースが非常に少ないことです。給与所得者が出張や研修で費用を負担した場合、経費精算により会社が負担することがほとんどのため、自己負担するケースはあまりありません。

特定支出控除は会社が負担した経費に適用されないため、特定支出控除を使う給与所得者はあまりいないのが現状です。

2. 自己負担の経費を会社に証明してもらわなければならない

特定支出控除が適用されるためには、自己負担の経費を会社に証明してもらわなければなりません。通勤費はもっとも合理的で経済的であること、勤務必要経費は職務の遂行に直接必要であることが条件です。

会社側も経費を認める以上、適切な支出か、適正な金額かを厳しくチェックするため、時間や労力がかかります。会社が経費と認めるかどうか微妙な支出も多く、特定支出の申告をしない給与所得者も少なくありません。

3. 適用を受ける経費の金額が高い

特定支出控除の適用を受けるためには、条件である「給与所得控除の2分の1を超える金額」を満たさなければなりません。給与所得者は個別に経費を控除することが認められていないため、収入金額に応じて少なくとも55万円の給与所得控除が設定されています。

会社が負担してくれない経費、かつ業務に関係する費用と会社が認める個人の経費が55万円を超えるケースはほとんどないと考えられるでしょう。比較的経費の多い勤務医や給与を得ながらMBA取得を目指す人など、ごく限られた給与所得者に限られます。

まとめ

特定支出控除は、給与所得者の支払った経費が多い場合に、特定所得を所得から差し引ける制度です。適用される条件や支出は厳しく定められているため、申告の際は慎重に手続きを進めましょう。特定支出控除が適用された場合、所得額が圧縮され、効果的な節税が行える可能性があります。

比較ビズは、特定支出控除や他の節税対策に強い税理士や公認会計士を短時間で探せる便利なWebサイトです。自分が設定した条件で徹底的に比較できるため、税理士・公認会計士に失敗する心配がほとんどありません。

給与所得者で確定申告を考えている方、節税のアドバイスが欲しい方はぜひ1度比較ビズを利用してみてください。

監修者のコメント
青木征爾税理士事務所
税理士 青木征爾

札幌市を中心に活動する税理士。アパレル業界から未経験で税理士業界に飛び込む。その後、個人事務所、資産税系コンサルティングファームで経験を積み独立。税理士の仕事で重要なことはお客様とのコミュニケーションであるという考えから対話を重視している。中小企業の経営支援、スタートアップ支援、相続業務を得意としている。

特定支出控除は平成24年と平成28年に改正があり、控除額の拡大や要件の緩和がありましたが、まだまだ適用の要件は厳しいものとなっています。適用を受けるには2つの高いハードルがあります。

1つ目は手間がかかるという点です。業務のために使用したということをひとつひとつ証明しなければなりません。特に旅費や勤務必要経費については個人使用のものと明確に区別する必要があります。

2つ目は適用を受けるための金額要件が厳しいという点です。特定支出額が給与所得控除額の2分の1を超えなければ適用を受けることができません。給与収入が400万円の方であれば62万円、年収500万円の方であれば72万円と高額な特定支出が必要になります。

特定支出控除の適用を受けることができる方というのは限定されているかもしれません。適用を検討される方は特定支出に係る領収書や証明書の保存をもれなく行い、時間が経過してからでも業務のために使用したことがわかるように記録をしっかり残しましょう。
比較ビズ編集部
執筆者

比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。

確定申告の依頼にお困りではありませんか?

もしも今現在、

  • 信頼できる税理士に依頼したい
  • 自身の状況に合わせた税務アドバイスがほしい
  • 税理士の費用相場がわからない

上記のようなお困りがありましたら、比較ビズへお気軽にご相談ください。比較ビズでは、複数の税理士・公認会計士に一括で見積もりができ、相場感や各社の特色を把握したうえで業者を選定できます。見積もりしたからといって、必ずしも契約する必要はありません。まずはお気軽にご利用ください。

確定申告に対応できる業者を一覧から探す

比較ビズでお仕事を受注したい方へ

資料請求はこちら