事業所得や給与所得で損益通算が適用できるケースとは?適用できないケースも紹介
- 損益通算ができるケースとは?
- 損益通算ができないケースとは?
- 損益通算を行ううえで把握すべきポイントとは?
損益通算とは、事業所得で発生した赤字を給与所得や不動産所得など、他の所得で相殺する計算方法です。損益通算は毎回適用できるわけではありません。どのようなケースに適用できるのでしょうか。
本記事では、損益通算が適用できるケースとできないケースについて解説します。最後まで読めば、損益通算を行ううえで把握すべきポイントもわかります。
起業直後に事業で赤字が発生した法人や個人事業主の方は、ぜひ最後までご覧ください。
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損益通算とは
損益通算とは、同一年度に発生した利益と損失を相殺する計算方法です。事業運営や株の売却で損失が発生したとしても、他の利益との合算によって赤字の解消を図ります。
損益通算をおこなうと所得や利益が減るため、納税額を減らせる点がメリットです。損益通算はすべての所得に適用できるわけではありません。適用できるケースとできないケースを理解することが重要です。
事業所得とは
事業所得とは製造業や卸売業、小売業など、特定の事業運営で得られた所得のことです。国税庁は以下7つに該当する事業から得た所得を事業所得と定めています。
- 農業
- 漁業
- 製造業
- 卸売業
- 小売業
- サービス業
- その他の事業
参照:国税庁
ライターやデザイナー、エンジニアなどはその他の事業に該当するため、業種による制限はありません。不動産の貸付や山林譲渡で得た所得は対象外となります。
事業所得は、事業で得た総収入額から必要経費を差し引いた額です。事業所得の額が大きくなるほど、納税額も増えるため、必要経費を確実に帳簿に計上しておく姿勢が求められます。
給与所得とは
給与所得とは、会社員が勤務先から受け取った給与および賞与から給与所得控除額を差し引いた金額を指します。収入によって控除される金額が異なるのが特徴です。給与所得控除額を以下にまとめました。
給与所得控除額 | |
---|---|
162.5万円まで | 55万円 |
162.5万円超〜180万円まで | 収入金額×40%-10万円 |
180万円超〜360万円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
360万円超〜660万円まで | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超〜850万円まで | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超〜 | 195万円 |
参照:国税庁
給与所得控除は会社員の必要経費に該当するため、控除された金額は所得税の課税対象には含まれません。
損益通算の対象となる7つのケース
損益通算が認められるケースは以下の7つです。
- 損益通算の対象となる所得を取得していた場合
- 途中で会社員を退職して起業した場合
- マンション経営で赤字になった場合
- マイホームの買い替えで損失が発生した場合
- マイホームを売却した場合
- 株で損失が発生した場合
- FXで損失が発生した場合
対象所得を取得していた場合でも、必ず損益通算が認められるわけではありません。事業所得や給与所得との損益通算が認められない場合もあるため、注意しましょう。
損益通算の対象となる所得を取得していた場合
損益通算の対象となる所得を以下の表にまとめました。
概要 | 備考 | |
---|---|---|
事業所得 | ・農業 ・漁業 ・製造業 ・卸売業 ・小売業 ・サービス業 ・その他の事業 |
・ライターやデザイナーなど、成果物の納品によって収入を得ている場合も該当 |
不動産所得 | ・土地や建物などの貸付 ・不動産関連の権利設定および貸付 ・船舶や航空機の貸付 |
- |
譲渡所得 | ・山ごと譲渡した場合による土地売買所得 ・ゴルフの会員権譲渡によって得た所得 |
- |
山林所得 | ・山林伐採後の譲渡によって得た所得 ・立木の譲渡によって得た所得 |
・山林取得後5年以内に伐採または譲渡した場合、事業所得または雑所得に該当 |
参照:国税庁
上記に該当する所得の場合、損益通算によって納税額を減らせます。上記に該当する所得であっても、損失理由や所得の種類によっては損益通算が認められません。赤字が絶対に相殺できるわけではない点を頭に入れておきましょう。
損益通算の対象となる所得か判断が難しい場合は、税理士に相談するのも有効な手段です。
途中で会社員を退職して起業した場合
同一年度内に会社員を辞めて起業した場合も、損益通算の対象となります。たとえば、2023年1月時点で会社員として働いていた方が、同年度途中に起業したとしましょう。
2023年6月に勤務先を退職し、8月から事業をはじめたものの、12月末時点で100万円の損失が出たとします。会社員時代の給与から赤字を差し引き、所得を抑えるのが損益通算です。
損益通算をおこなうと課税対象の利益が減るため、節税対策となります。損益通算によって損失を相殺しきれない場合も、最長3年間の繰り越し控除が可能です。
純損失の繰越控除
事業開始初年度や次年度に損失が発生した場合、翌年以降に発生した所得と相殺する方法を純損失の繰越控除と呼びます。一例として、事業開始1年目で300万円の赤字が出たとしましょう。翌年に200万円黒字が出ると、前年の赤字額200万円を相殺できます。
残り100万円の赤字を次年度に繰り越せるため、2年間所得税を支払う必要はありません。損失の繰り越しは最長3年にわたって可能です。
繰越控除をおこなうには、期限内に青色申告を済ませなければなりません。本来、事業が赤字の場合は納付すべき所得税がないため、確定申告は不要です。所得証明や国民健康保険料の軽減などメリットはあるため、準備を進めておきましょう。
マンション経営で赤字になった場合
賃貸マンションやアパート経営での赤字は、不動産所得での赤字に該当するため、事業所得や給与所得との損益通算が認められます。ただし、株式の譲渡所得や先物取引で得た雑所得との損益通算は認められていません。
マイホームの買い替えで損失が発生した場合
マイホームを売却し、新たなマイホームを住宅ローンで購入した場合、特定の要件を満たすと損益通算が認められます。
損益通算が適用されるには「居住用財産買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」と呼ばれる特例制度の要件を満たさなければなりません。要件を以下にまとめました。
- マイホーム売却により損失が発生している
- 売却したマイホームは国内にあり、居住用として使用していた
- 売却した年の1/1時点で所有期間が5年を超えている
- 以前のマイホームからは3年前の1/2より後に転居している
- 親族を含めた特別関係者との不動産売買に該当しない
- 新たに購入したマイホームは売却前年から翌年までに購入している
- 新たに購入したマイホームの床面積は50?以上となっている
- 売却した翌年末までに新たに購入したマイホームに居住している
- 住宅ローンの返済期間を10年以上に設定している
- 譲渡所得の居住用財産の特例を他で適用していない
参照:マルイシ税理士法人
損益通算をしても赤字をすべて解消できなかった場合、最長3年まで繰越が可能です。住宅ローン控除との併用適用も認められており、売却と購入のタイミングが同一年度内の場合、確定申告で特例適用の手続きを1度で済ませられます。
マイホームを売却した場合
マイホーム売却によって損失が発生した場合は「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」が適用できるかを確認しましょう。
上記の特例はマイホームを住宅ローン残高を下回る金額で売却し、譲渡損失が発生した場合に適用できる制度です。損益通算が認められるには、以下の要件を満たさなければなりません。
- マイホーム売却により損失が発生している
- 売却したマイホームには住宅ローンの返済が残っている状態
- 売却金額よりローン残高が多い
- 売却したマイホームは国内にあり、居住用として使用していた
- 売却した年の1/1時点で所有期間が5年を超えている
- 以前のマイホームからは3年前の1/2より後に転居している
- 以前のマイホームからは3年前の1/2より後に転居している
- 譲渡所得の居住用財産の特例を他で適用していない
参照:マルイシ税理士法人
損益通算の対象は、売却損失額または売却金額からローン残高を差し引いて残った額のいずれか少ない方です。新たなマイホームを購入したときと同様、特例適用によって赤字を解消できなかった場合、売却翌年から最長3年まで損失を繰り越せます。
株で損失が発生した場合
株式による損失は「申告分離課税における譲渡所得の赤字」に該当します。申告分離課税とは他の所得と合算せずに所得額を計算し、確定申告をおこなう課税対象です。他の所得と異なり、事業所得や給与所得での損益通算はおこなえません。
損益通算の対象として認められているのは、他口座での株式や債券、投資信託の譲渡所得です。一般株式との損益通算も認められていません。損益通算によっても赤字が解消されない場合は、確定申告によって最長3年間損失を繰り越せます。
参照:弥生
FXで損失が発生した場合
FXでの損失は「先物取引に係る雑所得等の赤字」に該当します。株での損失と同様に申告分離課税に該当するため、給与所得や事業所得との損益通算はおこなえません。
損益通算の対象は、他口座でのFX取引や取引所商品先物取引、取引所金融商品先物取引で発生した損益金となります。不動産や株式の譲渡所得による損益通算も対象外となるため、注意しましょう。
こちらも株式での損失と同様、損益通算によって赤字が解消されない場合は、確定申告によって最長3年間損失を繰り越せます。
参照:弥生
損益通算の対象外となる3つのケース
以下3つのケースに該当する場合、損益通算を利用した赤字の相殺はできません。
- 雑所得で赤字が出た場合
- 不動産所得の赤字が土地所得によって生じた場合
- 生活に必要ではない資産から損失が生じた場合
個々のケースに関して内容を正確に理解しておくことが重要です。
雑所得で赤字が出た場合
雑取得とは事業取得や給与所得、不動産所得など、いずれの所得にも該当しない所得を指します。雑所得に該当する主な収入を以下にまとめました。
- FXでの収入
- 副業でECサイトを運営している際に得た収入
- 年金収入
- 書籍や音楽による印税
- 講演料
- 非営業用貸金の利子
雑所得は所得税法にもとづき、損益通算が認められていません。所得の必要経費が家事関連の内容が多い点、必要経費を収入が上回るケースが少ない点から、損益通算による利益が少ないためです。
雑所得に該当する所得があったとしても、損益通算の対象所得には認められない点を理解しておきましょう。
参照:みずほ中央法律事務所
不動産所得の赤字が土地所得によって生じた場合
土地や建物を譲渡する際に損失が発生した場合は、損益通算の対象外となります。損失がなかったものとみなされるため、所得額からの控除は認められません。
参照:国税庁
同様に、土地所得に必要な資金が足りず金融機関から借りた場合、借入金の利子に該当する金額は損益通算の対象外として扱われます。2021年からは国外中古建物から生じた不動産所得の損失のうち、以下に該当する部分が損益通算の対象外です。
当該建物の耐用年数を「簡便法」等により計算した減価償却費に相当する部分の金額
参照:国税庁
生活に必要ではない資産から損失が生じた場合
国税庁では、以下に該当する資産を必ずしも生活に必要ではない資産と定めています。
- 趣味や娯楽目的で所有する不動産
- 趣味や娯楽目的で所有する不動産以外の資産
- 1個または1組の価値が30万円を超える宝飾品
- 1個または1組の価値が30万円を超える絵画や骨董品
- 競走馬
参照:国税庁
上記に該当する資産の譲渡によって損失が発生しても、損益通算の対象とは認められません。損益通算の対象外となる不動産は、別荘やセカンドハウスなどが該当します。
損益通算をおこなううえで意識すべき4つのポイント
ここまで損益通算の対象となるケースと対象外のケースについて述べてきました。失敗を避けるためには、以下4点を把握しておくことが重要です。
- 確定申告が必要となる
- 副業は事業所得の証明が必要となる
- クラウド型会計ソフトを導入する
- 税理士に相談する
ポイントの内容を1つひとつみていきましょう。
確定申告が必要となる
損益通算をおこなうには、期限内に確定申告を済ませるのが前提です。確定申告には青色申告と白色申告、2種類が存在します。損益通算はどちらの申告方法でも受けられますが、より多くのメリットを得るためにも、青色申告を選択しましょう。
青色申告特別控除を受けられると最大65万円が控除され、税金額が少なくなります。事業で赤字が出た場合、最長3年間損失の繰り越しが可能です。取引先の貸し倒れに備え、貸金残高合計額の5.5%以下を貸倒引当金として繰り入れていた場合は、繰入額が経費として認められます。
確定申告は例年2/16〜3/15が申告期限と設定されているため、事前に準備を進めておきましょう。
副業は事業所得の証明が必要となる
会社員として働きながら副業でも収入を得ている場合、雑所得として判断される可能性もあるため、注意が必要です。雑所得とみなされた場合、損益通算の対象から外れます。青色申告特別控除の適用による節税効果も得られません。
事業所得と雑所得の判断基準は、以下の4つです。
- 継続して安定した収入が得られているか
- 営利目的であるか
- 本業と同等の時間を費やしているか
- 職業として社会全体に認知されているか
雑所得と事業所得は明確な基準が設けられていません。判別が難しいため、1人で抱え込まず税理士や税務署に相談しましょう。
クラウド型会計ソフトを導入する
確定申告で提出する書類をスムーズに作成するには、クラウド型会計ソフトの活用がおすすめです。金額の入力や勘定科目を選択するだけで、日々の取引内容を記帳できます。簿記や会計の知識は必要ありません。
インターネットバンキングやクレジットカードとも連携しており、取引データの自動取り込みが可能です。会計ソフトによっては、スマートフォンで撮影した領収書をアップデートすると、仕訳までAIが自動で対応してくれます。
導入時にインフラ環境を構築する必要がないため、全体的に費用を抑えられる点も魅力です。月額料金が数千円台に設定されているソフトも多く、予算の捻出が難しい場合も十分導入を検討できるでしょう。
税理士に相談する
「所得が損益通算の対象に該当するかわからない」「事業所得と雑所得の判別が付かない」など、悩みを抱えている場合は税理士に相談しましょう。税理士は税務に関する豊富なノウハウと知識を持っており、実情を正確に反映したアドバイスが得られます。
資金調達や書類作成代行など、税理士から幅広いサポートを得られる点も魅力です。融資交渉の対策や補助金の活用、節税対策などの提案によって、運転資金確保や収支改善を図れます。
決算書や損益計算書、確定申告書作成などを依頼すると、業務負担軽減と正確な書類作成を望める点が魅力です。税理士によって得意分野が異なるため、依頼内容を決めてから税理士事務所を探しましょう。
まとめ
今回は以下の4点について述べてきました。
- 損益通算ができるケース
- 損益通算ができないケース
- 損益通算をおこなううえで把握すべきポイント
- 事業所得や給与所得の概要
損益通算とは、同一年度に発生した損失を事業所得や給与所得で相殺する方法です。会社員を退職して起業した場合や損益通算の対象所得を獲得していた場合に、適用できます。
マンション経営や株で損失が発生した場合、事業所得や給与所得での損益通算は認められないため、注意が必要です。
損益通算に関する手続きをスムーズに進めるためにも、税理士へ相談しましょう。「比較ビズ」を利用すると、必要事項を入力する2分程度で条件に合った税理士事務所を探し出せます。税理士事務所を探している方は「比較ビズ」を利用してみてください。
岐阜県出身。上場会社の経理に勤務する傍ら、竹中啓倫税理士事務所の代表を務める。M&Aなどの事業再編を得意とし、セミナーや研修会講師にも数多くあたるほか、医療分野にも造詣が深く、自ら心理カウンセラーとして、心の悩みにも答えている。税理士会の会務では、名古屋税理士協同組合理事を務める。
副業が本業と損益通算するためには、本業が事業所得であることが必要になります。営利性・有償性・継続性・反復性が基準となりますので、よく確認するようにしてください。
今回は取り下げられましたが、副業が300万円以上の収入がないと事業所得に認められないという話がありましたので、今後もある程度の規模がないと認められない可能性がないとも言い切れません。ご注意ください。
比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。
もしも今現在、
- 信頼できる税理士に依頼したい
- 自身の状況に合わせた税務アドバイスがほしい
- 税理士の費用相場がわからない
上記のようなお困りがありましたら、比較ビズへお気軽にご相談ください。比較ビズでは、複数の税理士・公認会計士に一括で見積もりができ、相場感や各社の特色を把握したうえで業者を選定できます。見積もりしたからといって、必ずしも契約する必要はありません。まずはお気軽にご利用ください。
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