青色申告でも簡易帳簿は使える?複式簿記との違いや必要な帳簿を解説

小西裕也税理士事務所
監修者
小西裕也税理士事務所 税理士 小西裕也
最終更新日:2024年09月19日
青色申告でも簡易帳簿は使える?複式簿記との違いや必要な帳簿を解説
この記事で解決できるお悩み
  • 青色申告での簡易簿記と複式簿記の違いとは?
  • 簡易簿記での記帳に必要な帳簿とは?
  • 簡易簿記に関して把握しておくべきポイントとは?

青色申告の際、簡易帳簿で作成した確定申告書を提出しても問題はありません。複式簿記で書類を作成した時と比べると、どのような違いが生まれるのでしょうか。

本記事では、青色申告での簡易簿記と複式簿記の違いを紹介します。最後まで読めば、記帳に必要な帳簿、重要なポイントなども理解できます。

来年度にはじめて確定申告をおこなう方、個人事業主になったばかりの方は、ぜひ最後までご覧ください。

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青色申告における簡易簿記と複式簿記の違い

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青色申告での簡易簿記と複式簿記の違いは、特別控除の金額です。簡易簿記の場合、最大でも10万円しか控除されません。複式簿記の場合は最大65万円まで控除されるため、所得税や健康保険料、住民税の納税額を大幅に削減できます。

青色申告特別控除を受けるには複式簿記での記帳に加え、他にも条件を満たさなければなりません。以下に条件をまとめました。

  • 事業所得または不動産所得がある
  • 確定申告の際に貸借対照表と損益計算書を提出する
  • e-Taxによる申告または電子帳簿保存を実施している

簡易簿記で青色申告をした場合、翌年以降の黒字で今年の赤字を相殺する赤字の繰り越しもおこなえません。

簡易簿記とは

簡易簿記とは取引内容を1つの勘定科目で表現する方法です。収入と支出だけを記帳するため、家計簿やお小遣い帳、預金通帳と同じ感覚で取引内容を記録できます。金の出入りを簡易的に表現するため、簿記の知識は必要ありません。

簡易簿記の記帳例を以下にまとめました。

  項目 詳細 入金額 支出額 残高
日付 売上 取引先A社 200,000円 - 400,000円

上記の表からは、取引先から入金があって預金残高が増えた点を把握できます。「いつの売上なのか」「現金なのか売掛金なのか」といった部分までは、読み取れません。

複式簿記とは

複式簿記とは1つの取引内容を複数の勘定科目で表現する方法です。左側に借方、右側に貸方を配置し、資産や負債の増減を表します。以下の表に複式簿記での記帳例をまとめました。

  借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額 摘要
8/15 売掛金(取引先A社) 200,000円 売上(商品A) 200,000円 7月販売分

上記の仕訳は、7月にA社に対して商品を販売した代金を回収したことを表しています。借方と貸方に記載する金額は同じです。複式簿記によって、お金の流れや資産の増減、収益状況を可視化できます。

複式簿記での記帳内容をもとに損益計算書や貸借対照表を作成するため、正確な記帳が必要です。

簡易簿記での記帳に必要な帳簿

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簡易簿記で確定申告をおこなう場合、必要となる帳簿は以下の4つです。

  • 現金出納帳
  • 買掛帳と売掛帳
  • 固定資産台帳
  • 経費帳

いずれの帳簿も補助簿に該当するため、作成義務が課せられているわけではありません。ただし、各帳簿を作成すると、お金の流れや固定資産の保有状況などを正確に把握できます。事業形態に応じて、作成する帳簿を選択しましょう。

現金出納帳

現金出納帳とは現金での取引を記録しておくための帳簿です。「いつどの企業からどのくらいの金額を受け取ったか」を記録として残します。現金の流れや預金残高、帳簿残高を可視化するのが、現金出納帳を作成する目的です。

手元の現金がいくらあるのかを正確に把握するため、入出金が発生するたびに記帳しましょう。本業に集中するために経理業務を他の従業員へ任せている場合は、現金出納帳の作成によって横領の発生を防ぐ効果も期待できます。

以下に現金出納帳の記帳例をまとめました。

日付 借方勘定科目 摘要 入金額 出金額 残高
8/1 売掛金 A社より回収 300,000円 - 300,000円
8/8 水道光熱費 B社へ支払う電気代 内容 10,000円 290,000円
8/10 買掛金 C社へ支払う原材料購入費 内容 150,000円 140,000円

記帳するたびに帳簿残高と預金残高が合致しているか、常に確認する姿勢が重要です。

買掛帳と売掛帳

商品やサービスを先に販売し、後から代金を受け取る掛け取引を展開している個人事業主に必要な帳簿です。買掛帳には原材料や部品、商品を仕入れた取引先に対し、いつまでにいくら支払うのかを記録しておきます。

売掛帳はどの顧客にいくら商品を販売したかを記録し、後から回収する売上を明確化するのが目的です。買掛帳と売掛帳のフォーマットは、特に指定があるわけではありません。

取引先別の買掛金や売掛金残高のみを把握したい場合は、取引内容や合計金額、残高のみを記載するシンプルなフォーマットを使います。取引内容を詳細に残しておきたい場合は、商品単価や数量も記入可能なフォーマットを使いましょう。

固定資産台帳

固定資産台帳は購入日や購入金額、使用開始日など、固定資産に関する情報を管理する帳簿です。保有する固定資産の取得金額や減価償却の状況を可視化します。

固定資産とは事業運営のために購入した資産のことです。使用期間が1年以上、取得金額が10万円以上のものが該当します。

減価償却のルールにもとづき、取得金額が10万円を超える固定資産は何年かに分けて経費として計上しなければなりません。青色申告を利用すると、30万円未満の固定資産を年間300万円までまとめて同一年度に経費として計上可能です。

固定資産台帳には、耐用年数に応じて経費を費用分配している事実を証明する役割も期待されています。

減価償却とは

固定資産の耐用年数に応じて、取得金額を何年かに分けて経費として計上する会計処理です。年月が経過するにつれて資産価値が下がるとの考え方により、取得金額から価値の減少額を差し引いて毎年の減価償却費を算出します。

経費帳

経費帳とは消耗品購入費や交通費、オフィスの光熱費など、仕入れ以外の経費を記録する帳簿です。経費の内容と金額を日付順に記帳し、仕入れ以外に発生した経費の毎月の合計金額を明確化します。

取引内容を摘要と金額、合計の3項目で記録するため、簿記の知識がなくても作成しやすい帳簿です。経費帳の記帳例を以下に記載しました。

日付 摘要 金額 合計
8/1 A店で文房具とコピー用紙を現金で購入 1,000円 1,000円
8/15 顧客との商談のために電車を利用 3,000円 4,000円
8/22 オフィス用家具を現金で購入 30,000円 34,000円
8/29 オフィス用の電気代が口座引き落とし 10,000円 44,000円

経費帳は記帳に手間がかからない分、記録内容は簡易的な内容に留まります。預金残高やお金の流れを可視するためにも、現金出納帳と併用しましょう。

簡易簿記に関して把握しておくべき4つのポイント

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ここまで簡易簿記に必要な帳簿に関して紹介してきました。個人事業主になったばかりの方、確定申告をはじめて控える方のなかには、簡易簿記に関して疑問点を持っている方もいるでしょう。不安や悩みを軽減するには、以下4つのポイントを把握することが重要です。

  • 確定申告での提出書類は複式簿記とさほど変わらない
  • 確定申告は期限内での申告を徹底する
  • 複式簿記へ変更するには作成すべき勘定科目や帳簿が増える
  • 現金式簡易簿記には条件が設けられている

ポイントの内容を1つひとつ確認しましょう。

確定申告での提出書類は複式簿記とさほど変わらない

簡易簿記と複式簿記のどちらを選んでも、青色申告では青色申告決算書と確定申告書の提出が求められます。簡易簿記と複式簿記の大きな違いは、貸借対照表の作成可否です。

売掛金や買掛金、借入金の残高を帳簿上で正確に確認できないと、貸借対照表を作成できません。簡易簿記の場合、すべての勘定科目を正確に記録するのは難しいでしょう。

個人事業主になったばかりの場合は、開業届と所得税の青色申告承認申請書を事前に提出しておく必要があります。提出期限は開業届が事業を開始してから1カ月以内、青色申告承認申請書の期限は3/15までです。

期限を過ぎると青色申告の適用は来年からになるため、注意しましょう。

確定申告は期限内での申告を徹底する

確定申告は例年2/16〜3/15に申告期限が設定されています。期限後に申告するとさまざまなペナルティが発生するため、期限内申告を徹底しましょう。仮に期限後に申告した場合、無申告加算税と延滞税が発生します。

無申告加算税とは、期限内に確定申告を済ませなかったことに対する追徴課税です。納税額が50万円以下の場合は15%、50万円を超える場合は20%に該当する金額を加算し、納税しなければなりません。

延滞税は、所得税を期限までに納めなかったことに対する追徴課税です。期限翌日から2カ月以内に納付した場合は7.3%、2カ月を超えた場合は14.6%に該当する額を加算しての納付が必要となります。

複式簿記へ変更するには作成すべき勘定科目や帳簿が増える

複式簿記による青色申告のメリットは、青色申告特別控除によって所得額から最大65万円控除される点です。青色申告特別控除が適用されるには、貸借対照表と損益計算書を作成しなければなりません。

簡易簿記のまま2つの書類を作成するには売掛金や買掛金、未回収金など、債権債務科目を設けたうえでの帳簿付けが必要です。あわせて棚卸資産の整理や決算整理をおこない、はじめて複式簿記と同等の内容に仕上がります。

複式簿記へ変更する場合は資産や負債、費用など、簿記全般に関する知識を学ばなければなりません。業種を問わず、主要簿に該当する仕訳帳や総勘定元帳の作成も必要です。

仕訳帳と総勘定元帳とは

仕訳帳とはすべての取引内容を日付順に記載した帳簿です。仕訳帳の内容をもとに総勘定元帳を作成するため、正確性の高さが求められます。総勘定元帳とはすべての取引内容を勘定科目別に分けた帳簿です。

現金式簡易簿記には条件が設けられている

現金主義での簡易簿記はあくまで特例扱いのため、さまざまな条件が設けられています。前々年の事業所得または不動産所得が300万円以下でない限り、現金主義による簡易簿記での申告は認められません。

事前に「所得税の青色申告承認申請書兼現金主義の所得計算による旨の届出書」を申請しておく必要もあります。届出書を提出していないと、手続きを進められないため、注意しましょう。

現金主義は帳簿付けや書類作成の負担を軽減できる一方、事前の手続きが必要です。所得額が増えると適用も認められなくなるため、発生主義での簡易簿記または複式簿記に切り替えましょう。

現金主義と発生主義とは

現金主義は、現金や預金口座に動きが発生したタイミングで取引内容を記帳する考えです。お金の流れを把握しやすい反面、費用が形状されるまで未払い金額を正確に把握できません。

一方、発生主義は商品の仕入れや販売など、取引が発生したタイミングで記帳する考えです。青色申告の際は、発生主義にもとづく複式簿記での帳簿付けが求められます。

青色申告特別控除を受ける確率を高める方法

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複式簿記での記帳や財務諸表の作成など、青色申告特別控除を受けるには複数の条件を満たさなければなりません。個人事業主のなかには、簿記や会計知識に乏しく不安を抱えている方もいるでしょう。

青色申告特別控除が適用される確率を高めるためにも、以下2つの方法を検討しましょう。

  • クラウド型会計ソフトを導入する
  • 税理士へ相談する

クラウド型会計ソフトはユーザーインターフェースに優れ、専門知識がなくても複式簿記で記帳ができます。初期費用や月額料金も比較的安いです。

税理士には資金調達や法人設立など、記帳代行以外の内容も相談できます。

クラウド型会計ソフトを導入する

クラウド型会計ソフトを導入すると、手間をかけずに複式簿記で日々の取引内容を記録できます。複式簿記での記帳に必要な作業は、金額の入力や勘定科目を選択するのみです。マウス操作やキーボード入力だけで作業が完結するため、簿記の知識がなくても問題ありません。

インターネットバンキングやクレジットカードとも連携できるため、取引データを自動で取り込めます。必要な情報を入力していくと、確定申告書や決算書の作成も可能です。

全体的に費用を抑えられる点も魅力です。導入の際、サーバーを調達する必要もありません。月額料金も数千円台に設定されており、資金力に不安を抱える方も十分導入を検討できるでしょう。

税理士へ相談する

本業に集中したい方、帳簿付けや書類作成に十分な時間を割けない方は、税理士へ依頼するのも有効な選択肢です。作業負担を軽減できるだけではなく、正確な帳簿付けや書類作成が望めます。

記帳代行や確定申告の書類作成代行サービスをスポットで提供する税理士事務所も増えており、必ずしも顧問契約を締結する必要はありません。資金調達や起業支援、海外進出など、さまざまな内容を相談できる点も魅力です。

ただし、すべての税理士が記帳代行や確定申告の書類作成を得意としているわけではありません。導入事例や対応可否をホームページから確認しましょう。

まとめ

今回の記事では以下の4点について述べてきました。

  • 青色申告での簡易簿記と複式簿記の違い
  • 簡易簿記での記帳に必要な帳簿とは?
  • 簡易簿記に関して把握しておくべきポイント
  • 青色申告特別控除を受ける確率を高める方法

青色申告における簡易簿記と複式簿記の違いは、控除金額です。簡易簿記は最大10万円までしか控除されない一方、複式簿記は最大65万円まで控除され、大幅な節税効果が望めます。青色申告特別控除を受けるには、複数の条件を満たさなければなりません。

複式簿記の記帳や書類作成をスムーズに進めるには、税理士へ相談するのがおすすめです。豊富な実務経験や知識を持っており、正確な仕事ぶりが望めます。

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監修者のコメント
小西裕也税理士事務所
税理士 小西裕也

1990年生 大阪府出身 大阪大学経済学部卒業。個人事務所、200人規模の税理士法人で実務経験を積み、2021年に独立。「お客様との対話を大事にする」をモットーに、クラウド会計を活用し、顧客に合わせた節税策や資金繰り対策を積極的に提案。ZOOMを使ったオンライン顧問サービスを行い、クライアントは全国に。

個人事業主が事業所得や不動産所得の確定申告を行う際に、特例を利用することで現金主義による所得計算を行うことができます。記事にも記載されているように、現金主義とは、売上の入金あったタイミング・経費の支出があったタイミングで売上・経費を計上する方法です。

「発生主義」と比較すると、帳簿を作成する手間は簡単で、確定申告業務を省力化できますが、「現金主義」の青色申告特別控除の額が最大10万円と「発生主義」の青色申告特別控除の額 65万円よりも低いですので、納税の面でデメリットが大きいです。

「現金主義」の特例を受けることでのデメリットを踏まえた上で、「発生主義」と「現金主義」どちらがいいのかを十分に検討することをおすすめいたします。
比較ビズ編集部
執筆者

比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。

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