キャリアアップ助成金とは?各コースの概要や申請手順、注意点などを解説
- キャリアアップ助成金とは?
- キャリアアップ助成金の申請する際の流れとは?
- キャリアアップ助成金を利用する際の注意点とは?
キャリアアップ助成金とは、有期雇用契約者の待遇改善に努める企業を支援する制度です。正社員への転換や賃上げなど、取り組み内容に応じたコースが用意されています。助成金の上限や助成率は各コースによってどの程度違うのでしょうか。
この記事を読むと、キャリアアップ助成金の概要や申請手順、利用する際の注意点を解説します。最後まで読めば、キャリアアップ助成金についての理解が深まるでしょう。
有期雇用契約者を多数雇用している企業は、ぜひ参考にしてください。
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キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金とは、有期雇用契約者のキャリアアップや待遇改善に取り組む企業が利用できる制度です。正社員への転換や賃金の引き上げ、退職金制度の導入など、取り組み内容別にコースが用意されています。
他の雇用関連の助成金と比べて、キャリアアップ助成金の支給額は高額です。準備すべき作業は多いため、制度の内容を正確に理解しなければなりません。
キャリアアップ助成金は2種類
キャリアアップ助成金は、大きく分けて以下2種類の内容で構成されています。
- 正社員化支援
- 処遇改善支援
正社員化支援は、パートや契約社員などで働く労働者を正社員雇用に転換した場合に利用可能なコースです。処遇改善支援は賃上げや賞与の支払い、退職金制度の導入など、取り組み内容によって費用が変動します。
正社員化支援
正社員化支援は、有期雇用契約者を正社員雇用に転換した場合に助成金を受給できる制度です。「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」の2つが用意されています。双方の概要を以下にまとめました。
正社員化コース | 中小企業 | 大企業 |
---|---|---|
有期雇用→正社員 | 80万円 | 60万円 |
無期雇用→正社員 | 40万円 | 30万円 |
障害者正社員化コース | 重度の身体障害者または知的障害者 | 軽度〜中度の障害者 |
---|---|---|
有期雇用→正社員 | 120万円(大企業:90万円) | 90万円(大企業:67.5万円) |
有期雇用→無期雇用 | 60万円(大企業:45万円) | 45万円(大企業:33万円) |
無期雇用→正社員 | 60万円(大企業:45万円) | 45万円(大企業:33万円) |
参照:厚生労働省
障がいを持たない有期雇用契約者を正社員雇用に転換した場合は、1人につき最大80万円が支給されます。重度の身体障害や知的障害などを抱える方を正社員として雇用した場合、助成金の支給額は1人につき最大120万円です。
処遇改善支援
処遇改善支援は賃上げやボーナスの支給など、有期雇用契約者の待遇改善に努める企業が利用できる制度です。取り組み内容に応じて4つのコースが用意されています。各コースの概要を以下にまとめました。
取り組み内容 | 助成額 | |
---|---|---|
賃金規定等改定コース | ・有期雇用契約者の基本給を3%以上増額改定 ・改定した賃金の適用 |
・賃上げ率3%以上5%未満:1人あたり5万円(大企業3.3万円) ・賃上げ率5%以上:1人あたり6.5万円(大企業4.3万円) |
賃金規定等共通化コース | 有期雇用契約者と正社員の賃金規定を共通化し、適用 | 1事業所あたり60万円(大企業:45万円) |
賞与・退職金制度導入コース | 有期雇用契約者向けに賞与と退職金制度を導入 | ・賞与または退職金制度いずれかを導入:1事業所あたり40万円(大企業:30万円) ・賞与および退職金制度を同時に導入:1事業所あたり56.8万円(大企業:42.6万円) |
社会保険適用時処遇改善コース | 以下いずれかの取り組みを実施
1. 社会保険に加入し、加入後に手当支給や賃上げ、労働時間の延長を実施 2. 社会保険に加入し、賃上げと労働時間の延長を実施 |
1. 手当等支給メニュー:50万円(大企業:37.5万円) 2. 労働時間延長メニュー:30万円(大企業:22.5万円) |
参照:厚生労働省
社会保険適用時処遇改善コースの1と2では、賃上げ率が異なります。1の場合は社会保険に加入するため、労働者負担分に該当する標準報酬月額の15%以上賃上げが必要です。
2の場合は労働時間の長さに応じて、賃上げ率が変動する仕組みになります。労働時間を3時間以上伸ばした場合、最低でも5%以上の賃上げが必要です。
キャリアアップ助成金の申請手順
キャリアアップ助成金の申請手続きは、選択したコースによって手順が異なるため、注意が必要です。ここでは正社員化コースを利用した場合の手順に関して紹介します。
- キャリアアップ計画書の作成
- 就業規則の改定
- 有期雇用契約者を正社員化
- 給与の増額
- 助成金支給の申請
作業内容を1つひとつみていきましょう。
1. キャリアアップ計画書の作成
キャリアアップ計画書とは、有期雇用契約者のキャリアアップに向けたサポートをどのように進めていくか、自社の方針を示す計画書です。対象者や期限、目標などを記載し、コース実施日の前日までに管轄労働局長へ提出しなければなりません。
フォーマットは厚生労働省のサイトから入手できます。キャリアアップ計画書を作成する際、キャリアアップ管理者の選任も必要です。キャリアアップ管理者とは、有期雇用契約者のキャリアアップに向けた取り組みを推進する役割を担います。
2. 就業規則の改定
キャリアアップ助成金を利用する場合、事業所ごとに就業規則の改訂および提出が必要です。就業規則には対象労働者の基準や賃上げ率、正社員転換の流れなどに関して規定します。
就業規則は労働者や企業双方が遵守すべき職場内のルールです。キャリアアップ助成金に限らず、助成金申請では就業規則の内容が支給要件を満たしているかが問われます。制度の内容が十分反映されるよう、時間をかけて取り組みましょう。
就業規則の規定内容に不安を抱える場合、社労士や労働基準監督署に相談するのも有効です。
3. 有期雇用契約者を正社員化
選択するコースによって取り組み内容が異なります。正社員化コースの場合、対象労働者を正社員雇用へ転換しなければなりません。雇用契約書の作成や社会保険への加入など、複数の手続きが必要です。
処遇改善支援コースを実施する場合は、賃金規定の共通化や退職金制度の導入など、取り組み内容に関する規定を盛り込みます。
4. 給与の増額
どちらのコースを選んだ場合でも、助成金の申請6カ月前と比較して3%以上賃金の増額が必要です。賃金の引き上げ率を間違えると、あとから訂正できません。助成金関連の不正受給が相次いでおり、審査基準が厳しくなっています。社労士に相談しながら、賃上げに対応しましょう。
助成金支給の申請に移れるのは、増額した給与を6カ月間支払ってからです。給与支払いが終わらない限り申請手続きに進めないため、間違えないように注意しましょう。
5. 助成金支給の申請
増額した給与を6カ月間支払った翌日から2カ月以内に、助成金支給の申請手続きを実施します。手続きに必要な書類を以下にまとめました。
- キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号)
- 賃金規定等改定コース内訳(様式第3号・別添様式3)
- 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
- 支払方法・受取人住所届
- 認定済みのキャリアアップ計画書のコピー
- 改定前後の就業規則または労働協約
- 改定前後の雇用契約書または労働条件通知書のコピー
- 改定前後の出勤簿またはタイムカードのコピー
参照:厚生労働省
用意すべき書類が多いため、早い段階から準備を進めることが重要です。
キャリアアップ助成金を利用する際の注意点
キャリアアップ助成金を利用する前、以下4点に関して把握しておきましょう。
- 中小企業の範囲に該当するかを確認する
- 申請手続きは給与支払い後に実施する
- 助成金の受給までに時間がかかる
- 助成金が支給されないケースがある
ポイントの内容を1つひとつみていきます。
中小企業の範囲に該当するかを確認する
キャリアアップ助成金は企業規模によって、助成金の支給額が異なります。申請前に自社が中小企業に該当しているかどうか、確認しておくことが重要です。厚生労働省が定める中小企業の範囲を以下の表にまとめました。
資本金または出資金額 | 常時雇用する労働者の数 | |
---|---|---|
小売店または飲食店 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売り業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
参照:厚生労働省
どちらのコースを利用する場合でも、以下の要件を必ず満たさなければなりません。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 事業所ごとにキャリアアップ管理者を選出
- キャリアアップ計画の作成および認定済み
- 対象労働者の労働条件や賃金の算出方法を提示可能
- 支給申請時点ですべての支給要件を満たしている状態
参照:厚生労働省
申請手続きは給与支払い後に実施する
助成金の支給申請手続きは、対象労働者に給与を6カ月支払ったあとに実施します。すぐに助成金申請の手続きができるわけではないため、注意が必要です。
賃上げ率は正社員への転換や待遇改善に取り組む前と比較し、最低でも3%以上賃金を増額させなければなりません。賃上げ率を間違えると助成金を受け取れなくなります。受給率を高めるため、助成金に精通した社労士に相談しながら手続きを進めましょう。
助成金の受給までに時間がかかる
他の助成金と比較しても、キャリアアップ助成金は受給審査に至るまでの期間が長いです。キャリアアップ計画書の作成や就業規則の改定、正社員への雇用転換など、多くの作業を実施しなければなりません。
確認事項や提出書類の多さを考えると、少なくとも1年前以上から準備を進めておく必要があります。
助成金が支給されないケースがある
以下に該当する場合、助成金の支給対象とみなされません。
- 労働保険料を納入していない事業主
- 支給申請日の前日から過去1年以内に法令違反を犯した事業主
- 風俗関連の営業または接待をともなう飲食店
- 暴力団と関わりのある事業主
- 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している状態
- 支給申請または支給決定までに雇用保険適用事業所と認定されていない状態
参照:厚生労働省
有期雇用契約者のキャリアアップや待遇改善の取り組みが、不十分と判断された場合も助成金の支給が見送られます。助成金の不正受給を防ぐため、審査は年々厳しくなっているのが現状です。
仮に虚偽申告によって助成金の不正受給が明らかになった場合は、5年間雇用関連の助成金を受け取れません。刑事告訴の対象となる可能性もあり、社会的信用低下やイメージダウンにつながります。多額の利益損失を避けるため、正当な手順に沿って手続きを進めましょう。
キャリアアップ助成金の申請手続きを効率化する方法
キャリアアップ助成金の書類作成や手続きを効率化する手段には、以下3つの選択肢が挙げられます。
- 規程管理システムの導入
- 労務管理システムの導入
- 社労士へ依頼
労務管理システムは、入退社の手続きや従業員管理の負担軽減を図れる点も魅力です。社労士を活用すると、就業規則の改定や書類作成など、多くの業務を依頼できます。
規程管理システムの導入
規程管理システムとは、就業規則や賃金規定など、社内規定の作成および管理に特化したシステムです。用途別にテンプレートが搭載されており、各種規定を効率的に作成できます。
作成した文書は、AIが過去の規定を参考に内容や表記揺れなどを確認するため、従業員が校正作業をおこなう必要はありません。校正作業の自動化によって、業務の効率性と正確性を高められます。
バージョン管理によって、システムには常に最新の内容が反映されている状態です。これまで誰がどのような内容を変更してきたか、編集履歴もすぐに把握できます。
労務管理システムの導入
労務管理システムとは、労働者の入退社や社会保険の加入手続きなどを効率化できるシステムです。雇用契約書や被保険者資格取得届など、各種書類をシステム上で作成できます。
書類作成〜役所への提出まで、一連の作業をシステム上で完結できるため、役所で手続きをおこなう必要はありません。記入漏れや不備があったとしても、すぐにシステム上で対応可能です。
従業員の情報管理や就業規則の改定にも対応しており、助成金申請の手続きをスピーディーに進められるでしょう。社内用の書類作成や入社手続きの効率化も図りたい企業におすすめの選択肢です。
社労士へ依頼
本業が忙しく、助成金申請の手続きに十分な時間を割けない方向けの方法になります。社労士を活用するするメリットは、多くの業務を依頼できる点です。書類作成〜就業規則の改定まで、助成金申請の手続き全般を任せられます。
社労士は助成金申請に必要な書類や手続きの流れを熟知しており、作業の進捗状況を必要以上に気にする心配はいりません。正確かつ素早い仕事ぶりによって、助成金の受給が高確率で望めます。
すべての社労士が助成金申請を得意としているわけではありません。ミスマッチを避けるため、ホームページ上で実績や得意分野を確認しましょう。
まとめ
今回の記事では以下の4点に関して述べてきました。
- キャリアアップ助成金の概要
- キャリアアップ助成金の申請手順
- キャリアアップ助成金を利用する際の注意点
- 申請手続きを効率化する方法
キャリアアップ助成金はキャリアアップ計画書の作成や賃上げなど、多くの作業をこなさなければなりません。なかには本業が忙しく、要件の確認や書類作成に十分な時間を割けない方もいるでしょう。
事業運営と助成金申請の手続きを並行して進めるには、社労士を活用します。書類作成〜就業規則の改定まで、申請手続きに必要な作業全般の委託が可能です。
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