同人誌作家は確定申告が必要？申告方法や押さえるべきポイントを解説

同人誌作家は確定申告が必要

同人誌作家が同人誌の作成・販売で得た利益は所得にあたるため、所得税の課税対象です。同人誌作家は、一定金額以上の所得を得ると確定申告して所得税を確定しなければなりません。

同人誌作家が確定申告を行おうと考えた場合、まずは確定申告が必要な状況なのかを確認しましょう。そのうえで、所得の区分を明確にして申告する必要があります。

本業は所得48万円から

同人誌作家を本業にしている場合、所得が48万円を超えれば確定申告が必要です。一定以上の規模で活動している場合は事業所得と見なされます。注意すべきなのは、収入と所得が異なる点です。所得とは、収入から経費を差し引いた残りの金額を指します。

収入が48万円を超えていても、必要経費を差し引くと確定申告が不要になるケースもあるでしょう。

48万円で確定申告が必要になる理由は、基礎控除の金額です。基礎控除とは誰でも認められている最低限の控除金額のことです。所得が48万円以下であれば基礎控除を差し引いて課税所得がなくなるため、申告が不要となります。

副業は所得20万円から

同人誌作家が副業である場合、所得が20万円を超えると確定申告が必要です。副業が同人誌作家だけではなく、複数あるケースではすべての副業の合計所得で判断します。

同人誌作家以外に副業をしている場合、ほかの所得とあわせて20万円を超えていれば、確定申告が必要です。逆に、同人誌作家として多くの所得を得ていても、他の所得が赤字であれば申告が不要になることもあり得るでしょう。

同人誌作家が赤字でも確定申告すべき理由4つ

同人誌作家が赤字であっても確定申告すべき理由は以下の4つです。

同人誌作家の所得が一定金額以下であれば通常確定申告は必要ありません。ただし、赤字でも確定申告することで得られるメリットがあります。

1. 損失の繰越しが利用できる

同人誌作家が赤字でも確定申告しておけば、損失の繰越が利用できます。青色申告している同人誌作家に限られますが、ある年の赤字を翌年以降3年間に発生する黒字と相殺可能です。

たとえば、ある年の同人誌活動で100万円の赤字を出したとしましょう。翌年400万円の黒字を出した場合、400万円に適用される所得税率は20％ですが、前年の100万円の赤字と相殺することで所得が300万円となり、所得税率が10％になります。

2. 損失の繰戻しが利用できる

損失の繰越に似ていますが、損失の繰戻しが利用できる点も同人誌作家が確定申告すべき理由です。損失の繰戻しは赤字が発生した場合に、前年の黒字と相殺してすでに納めた所得税を還付してもらえる制度です。

たとえば、同人誌作家がある年に50万円の赤字を出したとします。前年に300万円の黒字を出していた場合の税率は10％、控除額は97,500円であるため、所得税額は300万円×10％−97,500円＝202,500円です。

本年の損失の繰戻しを利用すると所得は250万円となり、所得税額は250万円×10％−97,500円＝152,500円。差額202,500円−152,500円＝5万円が還付されます。

3. 確定申告により所得が証明できる

同人誌作家が赤字でも確定申告をすべき理由は、所得を証明するためです。会社員であれば会社が源泉徴収を行い、年末調整を行って毎年の所得が確定するでしょう。しかし同人誌作家の場合、自分で確定申告しなければ所得が確定しません。

所得が証明できないと、不動産物件の賃貸契約やキャッシング、各種ローン契約が結べないこともあります。所得証明書や確定申告書の提出が求められる契約は意外と多いため、赤字でも確定申告しておく方がいいでしょう。

4. 国民健康保険料の算定に必要となる

同人誌作家を本業としている人はとくに、国民健康保険料の算定のために赤字でも確定申告しておくといいでしょう。国民健康保険料は給与所得や事業所得を含む総所得金額を基に計算されています。

同人誌作家が確定申告をせずにいると、正しい所得金額が反映されず国民健康保険料が本来支払うべき金額よりも高くなるおそれがあるでしょう。確定申告を行うことで、日常生活に必要な公的サービスを適正な金額で受けられます。

同人誌作家が確定申告する方法5ステップ

同人誌作家が確定申告するためには、5つのステップを踏む必要があります。

1つひとつのプロセスが正確な確定申告を行うために必要不可欠なものです。必要に応じて税理士の力を借りて手続きを進めることもできるでしょう。

1. 帳簿を作成する

同人誌作家が確定申告するために必要なのが、帳簿の作成です。帳簿をつけておけば、確定申告で必要となる決算書の作成がスムーズに行えます。通帳・領収書・クレジットカードの明細などを保管しておき、1年間の売上と経費を漏れなく記載しましょう。

青色申告を利用して65万円控除を受けるためには、会計ソフトを使って複式簿記で帳簿を作成しなければなりません。さらにe-Taxによる申告も必要です。一方、青色申告の10万円控除や白色申告を受ける場合には、ExcelやGoogleスプレッドシートの帳簿作成で十分でしょう。

2. 決算書を作成する

帳簿を作成後、決算書の作成に移ります。決算書は帳簿を基に作成可能です。白色申告では収支内訳書、青色申告では青色申告決算書を添付しなければなりません。

青色決算書は下記の4枚で構成されています。減価償却明細は、取得した年だけ作成するのではなく、使用可能期間の全期間にわたり必要です。

必要書類は国税庁ホームページからダウンロードできます。e-Taxを利用することで、より少ない手間で確定申告できるためおすすめです。

3. 確定申告書を作成する

作成した帳簿や決算書を使って、確定申告書を作成します。必要な様式は国税庁ホームページからダウンロード可能です。確定申告書は、第一表と第二表で構成されています。

慣れないうちは難しく感じますが、毎年確定申告を行うことでスムーズに確定申告書が作成できるでしょう。

4. 決算書と確定申告書を提出する

すべての書類が完成したあと、確定申告書や決算書を税務署に提出します。紙で提出する場合、すべて提出用と控え用を準備しておきましょう。書類の提出方法は主に以下の3つです。

• 税務署に直接行って提出する
• 書類を税務署に郵送する
• e-Taxを利用する

税務署に行けば書類に不備がないか確認してもらうことができます。郵送を利用することで、税務署の開庁時間以外の好きな時間に書類を提出できるでしょう。

現在ではe-Taxを使った確定申告を利用する方も少なくありません。ただし、e-Taxでは以下の2つが必要になることを覚えておきましょう。

5. 税金の納付や還付を受ける

確定申告が完了し書類に不備がなければ、所得税を納付します。もし所得税を納めすぎている場合、還付金を受け取れるでしょう。所得税の納付方法は主に以下の6つあります。

納付期限までに所得税を納めなかった場合、延滞税が課税されるため注意が必要です。確定申告後は、できるだけ早く所得税を納付するようにしましょう。

同人誌作家が確定申告する際のポイント4つ

同人誌作家が確定申告する際に押さえておくべきポイントは以下の4つです。

これらのポイントは、正確な確定申告を行うために覚えておくべき点です。副業禁止の会社に勤務している同人誌作家は、副業が会社にバレない方法を理解しておくことも重要でしょう。

1. 経費を記録しておく

同人誌作家が正確な確定申告を行うためには、経費をすべて記録しておくことが不可欠です。所得は収入から経費を差し引いたものであるため、経費を漏れなく計上することで所得税額を減らせます。

一般的に同人誌作家が経費にできる支出には以下のものがあります。勘定科目は一例であり、あまり頻繁に使用しない経費は、厳密に勘定科目を設定しない場合も少なくありません。

これらの費用はすべて経費にできるわけではなく、あくまで同人誌作家の活動に必要だった分を家事按分し、計上することを覚えておきましょう。

2. 確定申告前に棚卸をする

確定申告する際、正確な在庫金額を把握し利益を確定しなければなりません。確定申告前には、年度末の在庫と取得価額を確定します。

棚卸しにより、今在庫として残っている同人誌やグッズを確認しましょう。製品を作成するために、直接かかった仕入れがある場合も在庫の確認が必要です。

たとえば、同人誌を1,000部製作し100部売れ残っていたとしましょう。確定申告時に計上する売上は900部分、印刷・製本費などの経費も900部分です。100部の在庫は棚卸額として計上することになります。

3. 領収書がない経費には出金伝票を使う

同人誌の制作に費やした経費のなかには、領収書が発行されないものもあります。事業に関連する支出はすべて経費にできるため、領収書が発行されない場合には出金伝票を使って経費を証明しましょう。

出金伝票は、領収書がない場合に支出を裏付けられる証憑です。ただしどのような様式でも認められるわけではなく、以下の情報が記載されていなければなりません。

経費を水増ししていると見なされないため、摘要はできるだけ細かく記載しましょう。いつ、誰が、何のために、いくらの経費を使ったのか記載しておくべきです。

4. 会社に副業がバレないようにする方法を理解しておく

副業禁止の会社に勤務している方が同人誌作家として活動する場合、会社に副業がバレないようにする必要があります。確定申告すると、同人誌の所得と会社の給与の合計が住民税に反映されるため副業がバレやすくなるでしょう。

副業を会社に知られたくない場合、確定申告書の「住民税に関する事項」の欄で「自分で交付」のところにチェックを入れます。これにより同人誌作家の所得に対する住民税の通知が自宅に届くため、会社に知られずにすむでしょう。

同人誌作家が確定申告する際の節税策3つ

同人誌作家が確定申告する際、節税策として覚えておくべき3つのポイントがあります。

1. 青色申告で確定申告する

同人誌作家が節税する方法の1つは、青色申告を行うことです。青色申告最大のメリットは青色申告特別控除で、所得から最大65万円が控除されます。赤字を翌年以降3年間繰り越せる、家族への給与の支払いを経費にできるなどの特典もあるため、節税にとても効果的です。

さらに青色申告では、損益通算も可能です。同じ年度内で、所得ごとの赤字と黒字を相殺して所得金額を減らせます。事業所得も損益通算が可能であるため、同人誌作家を本業にしている方には魅力的な手法といえるでしょう。

2. 平均課税制度を利用する

自分の作品が多く売れた場合に効果的なのが平均課税制度です。たとえば同人誌の作品が正式に書籍化や映像化されるケースが該当します。一時的に多くの所得が発生すると、翌年納める所得税・住民税が高額になる可能性が高いです。

平均課税制度では、突出した所得のあった年を「変動所得」とみなし、変動所得を5年間に分割した金額に所得税率をかけます。5年間のうち1年だけ2,000万円の所得があるとしましょう。通常2,000万円の所得に対する所得税は以下のとおりです。

• 2,000万円×40％−2,796,000円＝5,204,000円

平均課税制度を利用すると1年あたりの所得税額は以下の金額となり、5年間にわたり同額を納めるため大きな節税になります。

• (2,000万円÷5年間)×20％−427,500円＝372,500円

3. 税理士に相談する

同人誌作家が節税したい場合、税理士へ相談するのも1つの手です。税理士に依頼できるのは、確定申告の代行だけではなく、記帳代行や経営のアドバイスも含まれます。さらに翌年の確定申告時には支払った税理士報酬を経費に計上できる点もメリットです。

節税対策や制度を利用できる条件など、同人誌作家に適した確定申告のアドバイスができるのは、税制のプロフェッショナルである税理士です。多少の費用はかかりますが、最適な節税策を知るために税理士を雇用することも検討できるでしょう。

まとめ

同人誌作家として活動している方は、所得が一定金額を超えると確定申告が必要です。利益が出ていなくても青色申告しておくと将来の節税に役立ちます。本業・副業を問わず確定申告を忘れずに行い、効果的な節税を実現しましょう。

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監修者のコメント

竹中啓倫税理士事務所

税理士・米国税理士・認定心理士　竹中啓倫

岐阜県出身。上場会社の経理に勤務する傍ら、竹中啓倫税理士事務所の代表を務める。M＆Aなどの事業再編を得意とし、セミナーや研修会講師にも数多くあたるほか、医療分野にも造詣が深く、自ら心理カウンセラーとして、心の悩みにも答えている。税理士会の会務では、名古屋税理士協同組合理事を務める。

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あまりなじみはないかもしれませんが、平均課税制度という課税の特例があります。

これは、スポーツ選手のように、多額の契約金が入り、収入金額が激変するような方の場合、税額が増えるのはともかく、日本の超過累進税率の場合、税率区分も変更になり、税額が加速度的に増えてしまうことがあります。

どうしても浮き沈みの激しい業種の場合、その税率も増えてしまいます。

変動の大きな所得として、
?変動所得（印税、原稿料、作曲料による所得などの事業所得や雑所得に分けられるもの）
?臨時所得（契約金や不動産の権利金などの対価、公害の保証金など）
の合計額が、その年の総所得の２０％を超えており、かつ、その年の?＋?の金額が、過去２年間の（?＋?）×５０％を超える場合に、平均課税制度を使用することができます。

執筆者

比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。