均等待遇と均衡待遇の違いは?規定の概要や判決事例7選をわかりやすく解説
- 均等待遇・均衡待遇の違いは?
- 均等待遇・均衡待遇の対象となる格差は?
- 均等待遇・均衡待遇を導入するポイントは?
均等待遇・均衡待遇とは、正規労働者と非正規労働者の間に生じる賃金や待遇面での格差を解消するための考え方です。均等待遇と均衡待遇は、同法の根幹を成す重要な制度であり、企業は適切な運用が求められています。
この記事では、均等待遇と均衡待遇の概要や違い、企業が注意すべき点を解説します。最後まで読めば、両者への理解が深まり、社内における同一労働同一賃金を実現するイメージがつかめるでしょう。
「均等待遇・均衡待遇を自社でも推進していきたい」「均等待遇・均衡待遇の具体的な事例が知りたい」とお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
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「均等待遇・均衡待遇」は同一労働同一賃金のための制度
「均等待遇・均衡待遇」は、正規労働者と非正規労働者の格差を解消するための取り組みです。2020年4月に施行された同一労働同一賃金制度において、正規労働者と非正規労働者の間に生じる賃金格差の解消を目的としています。
仕事内容が完全に同じ場合であっても、雇用形態やキャリアによって待遇が異なるのは不合理です。たとえば、正社員と契約社員が同じ販売業務を担当している場合、正社員の方が基本給が高く、賞与や福利厚生が充実している可能性があります。
待遇差は、従業員のモチベーション低下や離職につながります。均等待遇・均衡待遇は、待遇差を合理的な範囲内で調整するための考え方です。
均等待遇・均衡待遇の概要
均等待遇と均衡待遇の概要は下記のとおりです。
- 均等待遇|業務内容が同じであれば同じ賃金を支払う
- 均衡待遇|業務内容に違いがあれば違いに応じた賃金を支払う
均等待遇|業務内容が同じであれば同じ賃金を支払う
均等待遇とは、業務内容が同じであれば、雇用形態に関わらず同じ賃金を支払うべきだという考え方です。仕事内容が完全に同じなら、すべての従業員が同じ待遇を受ける権利を持ちます。仕事内容が同じ場合、同じ賃金と待遇を受ける権利があると考えます。
たとえば、正社員とパートタイマーが同様のレジ業務を担当している場合、どちらも均等な待遇を享受すべきです。同じレジ業務を行っている場合は、均等待遇に該当します。
均衡待遇|業務内容に違いがあれば違いに応じた賃金を支払う
均衡待遇とは、業務内容に違いがあれば違いに応じた賃金を支払うべきだという考え方です。雇用形態に関わらず、仕事内容に違いがある場合は、違いに応じた合理的な範囲内で賃金と待遇を調整します。
業務内容の違いは、職務の内容や配置の変更範囲、経験などが関係します。たとえば、正社員が販売責任者として接客や指導を行い、契約社員がレジ業務のみを行う場合は均衡待遇が必要です。
均等待遇と均衡待遇の違い
均等待遇と均衡待遇の違いは、次の要素が影響します。
- 適用範囲
- 考慮要素
- 判断基準
- 法的根拠
均等待遇と均衡待遇の違いは下記になります。
均等待遇 | 均衡待遇 | |
---|---|---|
適用範囲 | 正社員と非正規雇用労働者の同一な職務内容 | 正社員と非正規雇用労働者の異なる職務内容 |
考慮要素 | 職務内容や責任 経験や能力 勤務時間や労働環境など |
職務内容や責任 経験や能力 勤務時間や労働環境など |
判断基準 | 客観的な基準に基づいて判断 | 客観的な基準に基づいて判断 |
法的根拠 | 労働契約法第9条 労働基準法第4条 |
労働契約法第9条 労働基準法第4条 |
均等待遇と均衡待遇は、どちらも労働者間の不合理な待遇差を解消することを目的とした制度です。
均等待遇は、職務内容が同一であれば、雇用形態に関わらず同じ待遇を与えるという考え方です。均衡待遇は、職務内容が異なる場合でも、合理的な範囲で待遇差を設けるという考え方になります。
均等待遇・均衡待遇の対象となる4つの格差
均等待遇・均衡待遇の対象となる格差には次の4つが挙げられます。
- 基本給
- 賞与
- 手当
- 福利厚生
1. 基本給
基本給における不合理な格差を避けるためには、経験や貢献度に応じた公正な報酬体系の確立が必要です。労働の実態に違いがない場合は同一の基本給を支払う必要があります。違いがある場合は違いに応じた支給を行わなければなりません。
格差の例には下記が挙げられます。
合理的な格差例 | ・高度なスキルや経験が必要な正社員の方が基本給が高い ・責任の大きい役職の正社員の方が基本給が高い |
---|---|
不合理な格差例 | 同じ仕事内容だが雇用形態だけで基本給に差がある |
2. 賞与
賞与は、業績や責任、貢献度などの要素に基づいて合理的な範囲内で格差が設けられます。労働の実態に違いがなければ同一の賞与を支払い、違いがある場合は違いに応じた支給を行わなければなりません。
格差の例には下記が挙げられます。
合理的な格差例 | ・高い業績を上げた正社員の方が賞与が多い ・責任の大きい役職の正社員の方が賞与が多い |
---|---|
不合理な格差例 | 同じ業績を上げたのに雇用形態だけで賞与に差がある |
3. 手当
手当は、勤務時間や勤務場所、危険度などの要素に基づいて、合理的な範囲内で格差が設けられます。
格差の例には下記が挙げられます。
合理的な格差例 | ・夜勤や早朝勤を行う正社員に深夜手当や早朝手当を支給する ・危険な作業を行う正社員に危険手当を支給する |
---|---|
不合理な格差例 | 同じ勤務時間なのに雇用形態により手当の差がある |
4. 福利厚生
福利厚生は、職務内容や責任、貢献度などの要素に基づいて、合理的な範囲内で格差を設けられます。
格差の例には下記が挙げられます。
合理的な格差例 | ・長期勤続者に長年勤続表彰制度を設ける ・責任の大きい役職の正社員に役職手当を支給する |
---|---|
不合理な格差例 | 同じ職務内容だが雇用形態だけで福利厚生に差がある |
均等待遇・均衡待遇の判決事例7選
均等待遇・均衡待遇の判決事例には下記があります。
- 均衡待遇に沿い合理的と判断された事例3選
- 均等待遇に沿わず非合理的と判断された事例4選
均衡待遇に沿い合理的と判断された事例3選
均衡待遇に添い合理的と判断された事例には次の3つが挙げられます。
- アルバイトに賞与を支払わない
- アルバイトに私傷病手当を支給しない
- 契約社員に退職金を支払わない
1. アルバイトに賞与を支払わない
アルバイトに賞与を支払わないことは均衡待遇の考え方では合理的と判断されています。アルバイトと正社員では、業務内容の難易度や責任の重さが異なるため、合理的な格差と認められています。
参照:最高裁判所判例集
2. アルバイトに私傷病手当を支給しない
アルバイトに私傷病手当を支給しないことは合理的と判断されています。私傷病手当は長期雇用を前提とした制度です。
アルバイトは短期間で離職する可能性が高いため、私傷病手当を支給すると企業の負担が大きくなります。短期雇用のアルバイトには必ずしも適用されません。
アルバイトに長期の雇用が見込まれる場合は、私傷病手当の支給が検討される可能性があります。
参照:最高裁判所判例集
3. 契約社員に退職金を支払わない
契約社員に退職金を支払わないことは、合理的と判断されています。退職金制度は、正社員向けの福利厚生です。契約社員は雇用期間が定められているため、正社員のように長期勤続を前提とした制度は適用されないことが一般的です。
参照:最高裁判所判例集
均等待遇に沿わず非合理的と判断された事例4選
均等待遇に沿わず非合理的と判断された事例には次の4つが挙げられます。
- 契約社員に夏季・冬季の休みを認めない
- 契約社員に年末年始手当を支給しない
- 契約社員に扶養手当を支給しない
- 契約社員に有給を認めない
1. 契約社員に夏季・冬季の休みを認めない
契約社員への夏季・冬季の休暇を認めないことは不合理であるとの判決が下されています。休暇は業務のリフレッシュやワークライフバランスの確保に関わる重要な権利です。雇用形態に関わらず、夏季・冬季は一律に与えられるべきと考えられています。
判例では、契約社員でも一律に夏季・冬季の休暇を認めるべきであり、勤続年数による差別は認められないと示されました。
2. 契約社員に年末年始手当を支給しない
契約社員への年末年始手当不支給は不合理な格差です。繁忙期における労働への対価として、契約社員にも年末年始手当を支給すべきとの判決が出ました。
契約社員でも年末年始手当は、支給金額および勤務時期や時間に応じて一律に支払われる報酬との判決が出ています。忙しい時期に「契約社員だから」との理由で、手当を不支給にすることは「不合理な格差」となります。
3. 契約社員に扶養手当を支給しない
契約社員への扶養手当不支給は不合理です。契約社員の場合でも、長期継続勤務が期待される場合に限り、扶養手当が支給されるべきとの判決が出ています。
扶養手当は通常長期継続勤務を前提としているため、雇用形態により支給の適否が判断されていました。契約社員でも、契約が何度も更新されており、今後も長く契約する見とおしであれば、扶養手当も支給するべきと判決が出ています。
4. 契約社員に有給を認めない
契約社員に有給を認めないことは不合理な差別と認定されています。有給休暇は労働者の休息や健康保持に関わる重要な権利です。勤続年数に応じた平等な取り扱いが求められます。
判例では、契約社員にも勤続年数に応じた有給休暇を認めるべきであり、不合理な差別を排除するとの判断が示されました。一般的に勤続年数が短くなることが想定される場合は有給が認められません。
勤続年数が長くなり、継続しての勤務が期待できる場合は、正社員と同等に有給を認めるべきとの考えが示されています。
均等待遇・均衡待遇を導入する3つのメリット
均等待遇・均衡待遇を導入するメリットには次の3つが挙げられます。
- メリット1. 社員のモチベーション向上
- メリット2. キャリアアップの明確化
- メリット3. 人材不足の解消
メリット1. 社員のモチベーション向上
均等待遇・均衡待遇を導入することで社員のモチベーション向上につながります。社員は公平な評価を受けることで業務に対する意欲が高まります。
公正な評価は社員に「自分の価値が認められている」と満足感をもたらすでしょう。業務に対する取り組み姿勢が改善され、組織全体の生産性向上につながります。
正社員とアルバイトが同じ仕事をしている場合、正当な評価を受けることで仕事への意欲が高まりキャリアアップへの意欲が高まるでしょう。
メリット2. キャリアアップの明確化
均等待遇・均衡待遇の導入は、従業員のキャリアアップ明確化につながります。仕事における公平な評価は従業員に自己のキャリアパスを見据える機会を与えるでしょう。
均衡待遇により、従業員は自己の能力や志向に応じたキャリアアップの機会を見いだしやすくなります。
メリット3. 人材不足の解消
均等待遇・均衡待遇を導入することで、企業は優秀な人材を確保しやすくなります。公平な評価は企業に対する従業員の信頼を高め、企業イメージの向上につながるでしょう。
均等待遇・均衡待遇を実践する企業は、能力や経験にあった適切な待遇を用意することで、優秀な人材が集まりやすくなります。社員の定着率が向上することで、人材育成コストの削減も可能です。
均等待遇・均衡待遇のトラブルを未然に防ぐ方法4選
均等待遇・均衡待遇のトラブルを未然に防ぐ方法には次の4つがあります。
- 均等待遇・均衡待遇の理解
- 労働者への待遇に関する説明義務強化
- 均等待遇・均衡待遇の導入
- 裁判外紛争解決手続「行政ADR」の規定の整備
1. 均等待遇・均衡待遇の理解
トラブルを未然に防ぐためには、組織内外の関係者が均等待遇・均衡待遇の意味を理解することが重要です。理解がないまま制度を導入した場合、従業員への説明が不十分となり、感情的な反応が起こりやすくなります。
均等待遇・均衡待遇の目的や原則を事前に説明し、適切な理解を促すことが重要です。制度導入前に、経営者や管理職だけではなく、現場の社員も含めて周知徹底する必要があります。
2. 労働者への待遇に関する説明義務強化
トラブルを未然に防ぐためには、労働者に対する待遇に関しての説明義務の強化が必要です。待遇の差異は社員の不満の原因になりやすいため、透明性のある説明がないと、不平等感や疑念が募ります。
待遇の詳細や変更点を労働者に積極的に説明し、意見交換の場を設けることで、不満の解消やトラブルの予防につながるでしょう。具体的な説明だけではなく、制度全体をわかりやすく説明するための資料や研修なども有効です。
3. 均等待遇・均衡待遇の導入
適切なタイミングで均等待遇・均衡待遇を導入することが重要です。制度の内容や運用方法が企業の実情に合致しない場合、トラブルが発生しやすくなります。
組織の文化や状況を考慮し、従業員との十分なコミュニケーションを行いながら、均等待遇・均衡待遇を段階的に導入しましょう。制度導入前に、専門家や労働組合などの意見を参考に、慎重に検討することが重要です。
4. 裁判外紛争解決手続「行政ADR」の規定の整備
「行政ADR」を整備することにより、トラブル解決の効率化と労働者の安心感が向上します。
日本語で「裁判外紛争解決手続」の意味です。訴訟手続きによらず民事上の紛争を解決しようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して解決を図る手続とされています。
「行政ADR」は、行政委員会や行政機関などがADRを取り仕切ることです。トラブルが発生した場合、迅速かつ円満に解決できる仕組みがないと、事態が悪化する可能性があります。
「行政ADR」の導入により、紛争解決が迅速かつ低コストで行われ、組織内外の信頼関係が築かれます。労働者は裁判手続への不安を軽減し、公平な解決が期待できるでしょう。
均等待遇・均衡待遇の実現で企業が注意するポイント
均等待遇・均衡待遇の実現で企業が注意するポイントは下記のとおりです。
- 正社員の待遇を下げて待遇差を解消しない
- すべての雇用管理区分の正社員との間で待遇差を解消する
- 職務内容に応じた待遇とする
- 待遇決労使の合意が必須となる
1. 正社員の待遇を下げて待遇差を解消しない
均等待遇・均衡待遇の実現には、正社員の待遇を下げて待遇差を解消しないことがポイントです。不合理な待遇差を解消する際、正社員の待遇を引き下げることは適切ではありません。
均等待遇の目的は非正規雇用労働者の待遇改善であり、正社員の待遇を引き下げることは、企業と労働者の合意がない限り不適切です。
2. すべての雇用管理区分の正社員との間で待遇差を解消する
均等待遇・均衡待遇を導入する際は、すべての雇用管理区分の正社員との間で、待遇差を解消する必要があります。総合職や地域限定社員など雇用管理区分が複数ある場合、正社員の雇用管理区分と非正規雇用労働者との間での不合理な待遇差の解消が求められます。
会社が雇用管理区分を新たに設ける場合でも、正社員と非正規雇用労働者との不合理な待遇差の解消が必要です。
3. 職務内容に応じた待遇とする
職務内容に応じたバランスの取れた待遇を確保することが必要です。職務内容による待遇格差が均等待遇の原則に反し、不合理な差別を生む可能性があります。職務内容が異なる場合、内容に見あった公正な待遇を確保することで、不合理な差別を回避します。
4. 待遇決労使の合意が必須となる
正規雇用労働者の待遇変更には労使の合意が必要です。不利益な変更は合理的な理由がなければ認められず、変更は合理的である必要があります。就業規則の変更に際しては、労使の合意を得ることを原則とし、合理的な変更を行いましょう。
まとめ
均等待遇・均衡待遇は、非正規雇用労働者の待遇改善を目的とした制度です。正社員と非正規雇用労働者との間での待遇格差解消は、労働環境の改善に貢献し、組織のモラルと生産性を高めます。
均等待遇・均衡待遇を実現するためには適切な措置を講じることが重要です。均等待遇・均衡待遇は、制度の内容や運用方法が複雑なため、専門家に相談することをおすすめします。
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2000年に社会保険労務士資格を取得後、人材派遣会社の本店に入社し官庁対応や労務相談を主担当で約9年勤務。2007年には人材派遣会社の監査役に就任。独立後、2008年に大阪の玉造にドラフト労務管理事務所を設立。数々の企業向け官庁対応・労務相談に加え、派遣元責任者講習や職業紹介責任者講習講師や内部監査の代行業務など活動は多岐に渡る。外部セミナー講師を複数実施しており、かゆいところに手が届く現場に即した講義には定評がある。また、海事代理士として陸上のみならず海上労働者の労務相談も適時運営している。
待遇差のバランスがうまく取れているのかどうかの判定は裁判所がつけることとなります。ただ、そこにいくまでは厚生労働省が提示している同一労働同一賃金のガイドラインをもとにバランスがとれている旨の説明を実施して合意を得ることが必要でしょう。
ポイントは説明をすることと納得(合意)することは別物と考えることです。納得が得れないケースでは行政型ADRという制度を使って納得(合意)を得ることを支援するような仕組みを構築しています。裁判所の判断に至るまでに何らかの制度を活用して話合いで解決をすることが法律の趣旨でもあると考えられるのでなるだけ説明は密に行いましょう。
なお、「待遇」とあるので基本給や手当だけ均等均衡を考えればよいのではありません。教育訓練や福利厚生を含んだ大きい枠で均等均衡を比較していきましょう。
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