相続欠格を一から分かりやすく解説|判例や証明方法・4つの欠格事由
- 相続欠格に該当する条件は?
- 相続欠格の裁判例は?
- 相続欠格と相続廃除の違いは?
相続欠格とは、相続にまつわる不当な行為を行った人の相続権が剥奪される制度のことです。被相続人の意思が反映される「相続廃除」とは異なる点も多いため、十分に内容を理解して対策を講じる必要があります。
この記事では、相続欠格の詳細を解説します。裁判における具体的な事例も解説するため、どのような行為が相続欠格に該当するのか知りたい方はぜひ参考にしてください。
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相続欠格とは
相続欠格とは、民法891条の「相続欠格事由」に該当する相続人の相続権が剥奪される制度のことです。相続欠格は自動的に適用され、手続きや被相続人の意志は必要ありません。
相続欠格の該当は「被相続人ごと」に判断されることが特徴です。たとえば父親を殺害した子どもは、父の財産を相続する権利を失いますが、母親が亡くなった際は、母親の財産を相続する権利を有します。
相続欠格になると遺留分も認められない
一定範囲の法定相続人には、最低限保障される遺産の取り分(遺留分)があります。
遺言書に「長男と次男のうち、長男にすべての財産を相続させる」と記載されていたケースでは、遺言書の内容は次男の法的に認められた取り分を侵害しているため、次男は長男に遺留分を請求できます。
相続欠格になると、上記の遺留分を請求する権利も奪われます。遺留分の詳細は以下の記事を参考にしてください。
相続欠格には代襲相続が適用される
代襲相続とは、直系卑属(被相続人の子や孫)において何代でも認められるものです。相続欠格者に子どもがいる場合は、相続権が子に継承される「代襲相続」が適用されます。被相続人の子が亡くなっていれば孫に相続権が移りますが、孫が相続欠格者だった場合はひ孫に相続権が継承されます。
被相続人の兄弟姉妹が相続人になる場合、代襲相続できるのは甥姪の代までです。甥姪が亡くなっていた場合でも、甥姪の子は相続人になりません。
相続欠格が適用される4つの事由
相続欠格が適用される事由は以下のとおりです。
- 被相続人や他の相続人を殺害もしくは殺害しようとした場合
- 被相続人が殺害されたことを知りながら告発しなかった場合
- 詐欺や脅迫によって遺言を妨げた場合
- 遺言を廃棄・偽造・隠した場合
1つでも該当すると、自動的に相続欠格に認定されます。
1. 被相続人や他の相続人を殺害もしくは殺害しようとした場合
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
引用:e-Gov法令検索
被相続人や他の相続人を殺害したり、殺害を企てたりした場合、理由にかかわらず相続欠格に該当します。
ただし条文にあるとおり、相続欠格が適用されるのは「故意に」殺害を行った場合です。過失によって被相続人や他の相続人を死なせてしまった場合は、相続欠格事由には該当しません。
2. 被相続人が殺害されたことを知りながら告発しなかった場合
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
引用:e-Gov法令検索
被相続人が殺害されたことを知りながら告訴しなかった場合は、相続欠格事由に該当します。ただし、以下のケースに当てはまる場合は適用されません。
- 「殺害されたことを知っていた人」が判断能力に欠けている場合(精神疾患や未成年など)
- 「殺害した人」が自身の直系血族(親や子、孫など)や配偶者の場合
殺人を犯した人が直系血族や配偶者の場合、無慈悲に告訴することを躊躇するケースも少なくないため対象外とされています。親しい間柄であっても兄弟姉妹や甥姪、叔父叔母などが殺人犯となった場合は、告訴をしないと相続欠格事由に該当します。
3. 詐欺や脅迫によって遺言を妨げた場合
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
引用:e-Gov法令検索
詐欺や脅迫によって遺言の撤回や変更、取り消しをさせた場合は相続欠格に認定されます。たとえば「自身に有利な遺言を詐欺によって作らせる」「不利な遺言を脅しで撤回させる」などの行為が該当します。
4. 遺言を廃棄・偽造・隠した場合
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
引用:e-Gov法令検索
自分に不利な遺言書を破棄したり、偽造したりした場合も相続欠格が適用されます。民法は「被相続人の意思」を重要視しているため、それを踏みにじる行為を許しません。
相続欠格にまつわる裁判例
以下では相続欠格にまつわる裁判例を2つ紹介します。
相続欠格を取り消した事例
相手方BがCを殺害したことから、相手方Bは民法891条1号所定の者に当たる。
しかし、相手方Bは、昭和32年(小学1年生時)、交通事故に遭い、右脚の膝から下の部分を失い、義足を使用して歩行することを余儀なくされるようになり、読み書きの能力が不十分である(特に漢字の習得がほとんどできていない。)など知的能力もやや劣る状態となったこと、Cは、上記のような障害を持つ相手方Bを無視したり、馬鹿にしたりするような態度をとったりしたことから、相手方Bは、Cに憎しみを覚えるようになり、言い争いもたびたびあったこと、そのような経過を経た後の平成15年×月×日、相手方Bは、酒に酔ったCから、『親父が死んでわれが死ねば、最低の葬式をして、残った金はわしが使う。』などと言われて激高し、Cをナイフで何回も突き刺すなどして殺害するに至ったこと、被相続人Aは、相手方Bが被相続人A経営の呉服店を約33年間にわたり手伝ってきたことを評価していた上、上記事件についてはCにも非があったと思い、刑事裁判においては、相手方Bに寛大な刑が下されることを求め、また、服役後は、何回か刑務所を訪ね、障害を持つ相手方Bの出所後の生活を案じ、『心配ないから。』と話すなどしたことが認められる。
上記認定事実によれば、被相続人Aは、遅くとも相手方Bが上記の刑務所に服役したころには、相手方Bに対し、相手方Bを宥恕し、その相続人としての資格を有することを認める旨の意思表示をしたものと推認される。
したがって、相手方Bは、被相続人Aの相続人としての資格を有するといえる。
(広島家裁呉支部平成22年10月5日審判)
引用:大阪遺言・相続ネット
相続欠格が取り消された数少ない事例です。被相続人Aの生前、相続人Bは同じ相続人であるCを殺害しましたが、Cにも非があったこと、Bの服役中にAは何度も刑務所を訪れて出所後のBの生活を案じていたことから、被相続人AはBに相続人の資格があると認めていたと判定されました。
判例はあるものの、宥恕(被相続人が相続欠格者を許すこと)によって相続欠格の取り消しが可能かどうかは専門家の見解がわかれています。
相続欠格事由に当たらないと判断された事例
相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法八九一条五号所定の相続欠格者に当たらない。
引用:裁判所
相続欠格事由として最も多いのが、遺言書への不当な関与が疑われる事例です。遺言書を破棄や隠匿した場合でも、相続人に不当な利益を得る目的がなかったときは、相続欠格には該当しません。
相続欠格と相続廃除の違い
相続欠格とよく似た制度に「相続廃除」があります。相続廃除とは、財産を相続させたくない推定相続人(遺産を相続する予定の人)の相続権を、被相続人の意志に基づいて剥奪できる制度のことです。
相続欠格と相続廃除の違いは以下のとおりです。
相続欠格 | 相続廃除 | |
---|---|---|
相続権を失わせる方法 | 自動的に権利を失う | 被相続人か遺言執行者が家庭裁判所に申立を行う |
相続人の意思 | 不要 | 必要 |
遺留分 | なし | なし |
取り消し | 不可能 | 可能 |
代襲相続 | 適用 | 適用 |
戸籍への記載 | なし | あり |
主要な相違点を以下で説明します。
取り消しの難易度が異なる
相続欠格の取り消しは原則認められていない一方、相続廃除は取り消しができます。被相続人が「やはり推定相続人の廃除を取り消そう」と判断し、家庭裁判所へ取り消しの申立を行うことで解決可能です。
相続欠格と相続廃除は、どちらも相続権を失う点においては共通ですが、取り消しの難易度は大きく異なります。
被相続人による「意思表示」の必要性が異なる
相続欠格は、相続欠格事由に該当する人の相続権が「自動的に」失われる制度です。相続廃除は「被相続人の意思に基づいて」推定相続人の相続権を剥奪する制度です。
相続欠格に該当しない相続人に「どうしても財産を渡したくない」場合は、相続廃除の手続きを検討できます。
相続廃除は、被相続人の主観的な感情だけではなく、客観的な証拠に基づいた裁判所の判断が必要です。廃除が認められるハードルは決して低くないため、検討する場合は専門家への相談をおすすめします。
相続廃除の詳細は以下の記事を参考にしてください。
相続欠格を証明する方法
相続財産に不動産が含まれていた場合、名義を相続人に変更する手続き(相続登記)が必要になります。相続登記の際、相続人のなかに相続欠格者がいる場合は、その事実を証明しなければなりません。
相続欠格を証明する方法は以下の2つです。
- 相続欠格証明書を作成する
- 訴訟をして判決書をもらう
相続欠格は戸籍に記載されないため、いずれかの方法をとることでしか証明できません。
相続欠格証明書を作成する
相続欠格者本人が「自身に相続権がない旨を認めている」場合は、相続欠格証明書を作成します。相続欠格者の署名と実印による捺印が必要なため、本人による作成が必要です。
相続登記の手続き時は、上記で作成した相続欠格証明書と「相続欠格者の印鑑証明書」を提出します。
訴訟をして判決書をもらう
相続欠格者本人が「自身に相続権がない旨を認めていない」場合は、訴訟を起こし確定判決を得る必要があります。相続登記の手続き時は、確定判決の際に得た「判決書」を証明書類として提出します。
まとめ
この記事では、相続欠格の詳細や判例、証明方法などを解説しました。相続欠格は被相続人の意思が介在しませんが、相続廃除は別です。財産を渡したくない相続人がいる場合は、相続廃除を念頭に置いて準備を進めましょう。
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岐阜県出身。上場会社の経理に勤務する傍ら、竹中啓倫税理士事務所の代表を務める。M&Aなどの事業再編を得意とし、セミナーや研修会講師にも数多くあたるほか、医療分野にも造詣が深く、自ら心理カウンセラーとして、心の悩みにも答えている。税理士会の会務では、名古屋税理士協同組合理事を務める。
中身を見てみると、遺言書の隠匿や偽造などもあるようで、意外とやりがちな内容も含んでいるようです。また、詐欺や脅迫により遺言を妨害したりするケースも含まれるようですので、実務上には割とあるように思います。
「相続欠格」と似たものに、「相続廃除」のように別に違法行為をしなくても、虐待を行っていた等により、被相続人の意思や遺言によって、相続人から除外されるケースもあり、注意が必要になります。
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