【最新】「棚卸資産の評価に関する会計基準」とは?評価方法・基準・開示を解説

三井公認会計士・税理士事務所
監修者
最終更新日:2023年03月13日
【最新】「棚卸資産の評価に関する会計基準」とは?評価方法・基準・開示を解説
この記事で解決できるお悩み
  • 「棚卸資産の評価に関する会計基準」とは?
  • 棚卸資産はどんな評価方法があるの?
  • 棚卸資産の評価基準は?

棚卸資産の評価を行う際、会計基準や評価方法の知識が必要です。

この記事では「棚卸資産の評価に関する会計基準」の概要や棚卸資産の評価方法について解説します。

税務署に届出が必要な場合もあるため、自社の棚卸資産をどう評価すべきか悩んでいる方や経理担当の方はぜひ参考にしてください。

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「棚卸資産の評価に関する会計基準」とは

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国際会計基準審議会によって発行され、企業が棚卸資産の認識、測定、開示において一貫性を保つことを目的に設定されています。「棚卸資産の評価に関する会計基準」は、棚卸資産の評価に関する指針を示すものです。

「棚卸資産の評価に関する会計基準」は、企業が製造または再販するために購入する棚卸資産を対象としています。企業が棚卸資産を評価するために最も適切な方法の選択を支援するものです。

主な目的は、事業によって生産された棚卸資産の価値の見積りを提供し、財務報告に利用するためです。

棚卸資産の評価方法・評価基準・開示について定めたもの

「棚卸資産の評価に関する会計基準」は、棚卸資産の評価方法・評価基準・開示について定めたものです。

棚卸資産は、棚卸資産の測定に使用される容認された方法を定義し、棚卸資産評価に最も適切な手法を選択するための指針を提供しています。この基準は使用される測定基準にも影響します。

企業は最も実際的な方法に基づいて、棚卸資産に関する一定の開示を行わなければなりません。企業は選択した方法を財務諸表の注記で開示し、棚卸資産の評価方法に関する説明を提供します。

「企業会計原則」や「原価計算基準」より優先して適用される

企業会計原則や原価計算基準など、他のすべての会計基準より優先し、棚卸資産を評価する際にすべてのケースで使用されるものです。

企業会計原則とは、企業会計の実務の中から一般的に公正妥当と認められる基準を要約したもので次の7つで構成されています。

  • 真実性の原則
  • 正規の簿記の原則
  • 資本取引・損益取引区分の原則
  • 明瞭性の原則
  • 継続性の原則
  • 保守主義の原則
  • 単一性の原則

原価計算基準とは、実績規範として一般に公正妥当と認められるところを要約して設定されたもので次の5つを目的として掲げています。

  • 財務諸表の作成
  • 価格計算
  • 原価管理
  • 予算編成ならびに予算統制
  • 経営の基本計画の設定

2019年7月4日に最終改正が行われた

在庫評価方法と最も適切な手法、および求められる開示について、追加的な説明がなされています。最新版は、2019年7月4日に改訂されました。

例えば勘定科目である「たな卸資産」という表記を「棚卸資産」と変更して表記するようになったのもこの改正の内容です。

棚卸資産の評価方法4つ

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棚卸資産の評価方法は、価値を決定するために使用する基準となるものです。「棚卸資産の評価に関する会計基準 」は、棚卸資産の評価方法として、以下の4つの方法をまとめています。

  • 個別法
  • 先入先出法
  • 平均原価法
  • 売価還元法

1. 個別法

個別法は、まだ生産中の棚卸資産を評価するのに適した方法です。個々の品目に、取得に要した総費用と生産に伴う追加費用に基づく価値を割り当てます。コストとは、労働、税金、および関連する他の直接コストが含まれています。

2. 先入先出法

先入先出法は、同一の品目があり、異なる方法で棚卸資産を評価することが極めて困難な場合に使用する方法です。最初に仕入れたものが、最初に使用または販売されると仮定しています。最初に購入した商品の原価は、最近生産または販売された商品に適用されます。

3. 平均原価法

平均原価法は、さまざまな大きさの在庫が相当量あり、商品の価値が異なる可能性がある場合に使用する方法です。各品目に価値を割り当てるために、購入したすべての品目の平均原価を使用します。

4. 売価還元法

売価還元法は、会計上の評価を行うために、その品目の直近の既知の販売価格を使用することができます。

通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価基準9つ

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棚卸資産は「取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落した場合、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額」とするのが評価基準です。販売目的で保有する棚卸資産の評価基準は以下の9つが挙げられます。

  • 「取得原価」をもって貸借対照表価額とする
  • 正味売却価額が取得原価より下落していれば「正味売却価額」とする
  • 販売市場で時価を把握できない場合「合理的に算定された価額」による
  • 滞留または処分見込等の棚卸資産は収益性の低下を反映する
  • 正味売却価額が当該再調達原価に連動する場合は「再調達原価」による
  • 複数の売却市場に参加し得る場合は「販売可能と見込まれる売価」を用いる
  • 収益性の低下の有無にかかわる判断・薄価切下げは原則個別品目ごとに行う
  • 期末の正味売却価額が帳簿価額より下落していれば「正味売却価額」による
  • 洗替え法と切放し法のいずれかを棚卸資産の種類ごとに選択適用できる

1. 「取得原価」をもって貸借対照表価額とする

取得原価の金額は、貸借対照表の棚卸資産に記載し企業の構成要素として価値のある「資産」として計上します。

取得原価とは、原材料費、労務費、間接費、金融費用など、直接費と間接費の両方を含む、棚卸資産に支払った、または割り当てられた金額のことをいいます。

2. 正味売却価額が取得原価より下落していれば「正味売却価額」とする

正味売却価額とは、通常の営業過程における見積販売価格から、合理的に予測可能な完成品、廃棄、輸送にかかわる費用を差し引いた金額です。

この値が取得原価を下回る場合、その低い方の値を代わりに使用します。

3. 販売市場で時価を把握できない場合「合理的に算定された価額」による

販売市場において時価が把握できない場合には「合理的に算定された価額」を使用します。

市場価格を正確に観察できない場合は、合理的に見積もられた価格を使用します。合理的に見積もられた価額には、輸送、取り扱い、廃棄に関連する費用など考慮しなければなりません。

4. 滞留または処分見込等の棚卸資産は収益性の低下を反映する

陳腐化や経年劣化によるものであっても、棚卸資産の価値の下落は貸借対照表の金額で認識されなければなりません。

棚卸資産は資産の部に計上していることから、企業の価値の一部として評価されています。そのため、損益計算書上で損失として計上した場合は、資産の価値も減少させなければなりません。

5. 正味売却価額が当該再調達原価に連動する場合は「再調達原価」による

会計基準では、棚卸資産は再調達原価で評価することが規定されています。再調達原価が、棚卸資産の現在の市場価値を正確に見積もることができると考えられているためです。

正味売却価額を当該再調達原価に連動させる必要があります。販売価格が再調達原価を下回る場合、販売価格を在庫評価額として使用する必要があります。

6. 複数の売却市場に参加する場合「販売可能と見込まれる売価」を用いる

市場が複数ある場合、会社は個々の商品の推定販売価格を使用して棚卸資産を評価する必要があります。企業は、異なる市場に参加する可能性が、より高い価格、より低い輸送費、またはその他の節約など考慮できます。

参入する市場が複数ある場合は、すべての市場を考慮に入れて売価を設定することが必要です。

7. 収益性低下にかかわる判断・薄価切下げは原則個別品目ごとに行う

収益性の低下および評価減の有無の判断は、原則として個別品目ごとに行われます。棚卸資産ごとに個別に評価する必要があり、品目ごとに市場や業種によって価値が異なる可能性があるため、最も正確な評価額が必要です。

8. 期末の正味売却価額が帳簿価額より下落したら「正味売却価額」による

期末の棚卸資産の価値が下がると予想される場合に使用されます。期末の正味売却価額が帳簿価額より低い場合、棚卸資産の評価には「正味売却価額」を使用します。

棚卸資産が事業において無期限に保有されるわけではないため、事業で発生した損失は計上されるべきである、という考え方にもとづくものです。

9. 洗替え法と切放し法のいずれかを棚卸資産の種類ごとに選択適用できる

評価減法は「簿価切下げの方法」とも呼ばれ、販売予定価格が原価を下回る場合に、原価を減額して貸借対照表から棚卸資産を減額する方法です。

通常、近い将来に販売される見込みのない棚卸資産に適用されます。棚卸資産の評価減は「正味売却価額まで評価減する方法」としても知られ、棚卸資産の原価を計算し、正味売却価額と比較します。

原価が正味売却価格を上回った場合、その差額を費用として計上しなくてはなりません。

トレーディング目的で保有する棚卸資産の評価基準2つ

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「棚卸資産の評価に関する会計基準」は、企業が保有する棚卸資産を会計士が評価するためのガイドラインです。2つの評価方法が提案されており「原価で評価する方法」と「時価で評価する方法」です。

売買目的で保有する棚卸資産は、原価と時価のいずれか低い金額で評価することが求められています。保有目的が変更される棚卸資産は「金融商品に関する会計基準」に従わなければなりません。

1. 時価をもって貸借対照表価額とする

原価と時価のどちらを低く評価するかの判断は、保有目的の影響を受けないようにします。貸借対照表価額として時価を用いる場合、棚卸資産は時価と原価のいずれか低い額で評価しなければなりません。

原価が時価より高い場合には、原価を低価に修正する必要があります。原価が上昇した場合に市場価値が減少するのであれば、原価を適切に調整しなければなりません。

2. 留意点や保有目的の変更処理は金融商品会計基準」に準じる

保有目的を変更した場合には、予想実現可能価額または実現可能価額を算定するための、重要な前提条件の変更に起因する簿価の変化を開示価額に反映させなければなりません。

棚卸資産の保有目的を変更する場合には「金融商品に関する会計基準」の「金融商品の評価および開示」に従います。棚卸資産の予想実現可能価額に基づく開示価値を財務諸表の注記欄に記載し、その価額を算出するための重要な前提条件を開示することを求めています。

棚卸資産の開示方法4つ

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棚卸資産の開示方法には以下の4つがあります。

  • 通常の販売目的で保有する棚卸資産の収益性の低下にかかわる損益の表示
  • 通常の販売目的で保有する棚卸資産の収益性の低下にかかわる損益の注記
  • トレーディング目的で保有する棚卸資産に関わる損益の表示
  • トレーディング目的で保有する棚卸資産にかかわる注記

1. 通常の販売目的で保有する棚卸資産の収益性低下にかかわる損益の表示

通常の販売目的で保有する棚卸資産の収益性の低下に関連する損益の表示です。通常の事業の用に供している棚卸資産について、陳腐化、含み損などの項目による価値の減少を、財務諸表に反映させるために表示する金銭的な金額です。

発生した損失は、残りの棚卸資産が売却または処分されるまで、損益計算書に対して表示されます。

2. 通常の販売目的で保有する棚卸資産の収益性低下にかかわる損益の注記

通常の事業の過程において、売却目的で保有される棚卸資産の収益性の低下に関連する損益への注記です。財務諸表の閲覧者が、棚卸資産の管理による財務的影響の理解を補助するものです。

棚卸資産の原価、正味実現可能価額、将来の回収が見込まれる正味実現可能価額、陳腐化に対する引当金などに関する情報を提供する必要があります。

3. トレーディング目的で保有する棚卸資産に関わる損益の表示

売買目的で保有する棚卸資産に係る損益の表示です。投資家やその他の財務諸表利用者に、トレーディング目的の棚卸資産に対する投資で発生した損益の金額を知らせるためのものです。

棚卸資産の評価方法や原価などの他の詳細とともに、損益計算書に表示される必要があります。

4. トレーディング目的で保有する棚卸資産にかかわる注記

売買目的で保有する棚卸資産に関する注記です。財務諸表の利用者がトレーディング目的で保有する棚卸資産の性質を開示するものです。

注記には、棚卸資産が売れ残る見込みの期間、売買目的で保有する棚卸資産の購入に要した費用、売買目的で保有する棚卸資産の会計処理で生じる制限などの情報を記載します。

「棚卸資産の評価に関する会計基準」の注意点2つ

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棚卸資産の評価方法について判断・検討する際には「棚卸資産の評価に関する会計基準」をよく理解しておくことが重要です。国際財務報告基準(IFRS)に準拠したもので、以下の2点が記載されています。

1. 棚卸資産の評価方法は区分ごとに選択・継続して適用する

棚卸資産を分類し、区分ごとに評価方法を選択し、継続的に適用しなければなりません。棚卸資産の評価に適用できる方法には、先入先出法、後入先出法、加重平均法、またはその他の方法があります。

選択した評価方法は、在庫を生産するために使用された労務費および材料費、輸送、配送、保険および関連費用を含む在庫の原価を反映したものでなければなりません。

在庫の購入に関わる費用、輸送、保管、作業を完了するための設備使用料、商品の配送に関わる梱包材などの費用すべてを考慮する必要があります。

2. 選択する棚卸資産の評価方法によっては届出が必要になる

新たな評価方法を採用した場合や、評価方法を変更した場合に税務署へ届出が必要です。税務署への棚卸資産の評価額に関する公表額は、棚卸資産に採用された評価方法によって決定されます。

経理担当者は、選択した棚卸資産の評価方法に応じて、税務署へ必要な届出を提出します。

まとめ

棚卸資産の評価に関する意思決定を行う際には「棚卸資産の評価に関する会計基準」の理解が必要です。棚卸資産の評価方法は分類ごとに選択し、継続的に適用する必要があり、選択した棚卸資産の評価方法によっては、税務署への届出が必要となるケースもあります。

経理や在庫管理の担当者は、本基準を参考に、自社の棚卸資産を適切に評価し、必要な届出が行われているかを確認する必要があります。

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監修者のコメント
三井公認会計士・税理士事務所
代表 三井 岳

東京都世田谷区にて会計事務所を運営している。大手監査法人での経験を生かして、税務顧問、決算支援、内部統制導入支援及び研修講師等の業務を行っている。顧客目線でのサービス提供を特長として、個人から上場会社までの幅広い規模・業種の対応を行っている。

当該記事は、企業会計基準における棚卸資産の評価について取りまとめたものとなっています。企業会計基準は、企業の財政状態及び経営成績を適切に開示することを目的としている一方で、税法基準は、納税額を算出することを目的としていることから、様々な点において計算方法に相違があります。

棚卸資産の評価に関する主な相違点は、以下となっています。

?企業会計基準では原則として最終仕入原価法の採用を認めていないが、税法では届出を行わない限りは最終仕入原価法を採用することとなる。

?企業会計基準ではいわゆる低価法を採用しなければならないが、税法では届出を行わない限りは原価法を採用することとなる。

?企業会計基準で求められる時価と、税法の低価法で認められる時価の範囲は異なり、一部の評価損は税法では認められない。

単に納税を目的とした決算書を作成するだけであれば、税法基準による会計処理で問題ありませんが、企業の財政状態及び経営成績を適切に開示する場合には(経営分析を行う場合や銀行等の第三者から求められる場合など)、企業会計基準(又は中小企業会計指針等)に基づいた会計処理をすることが必要となります。企業会計基準による棚卸資産評価を行う場合には、当該記事をご参考ください。
比較ビズ編集部
執筆者

比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。

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