棚卸資産(在庫)評価損とは?概要から計算方法・仕訳まで詳しく解説
- 棚卸資産評価損とは何か
- 棚卸資産評価損の計算方法
- 棚卸資産評価損の仕訳
棚卸資産評価損についての理解は、会計処理を適切に行い、また経営を分析するために欠かせません。棚卸資産評価損とは、棚卸資産(在庫)の価値減少を貸借対照表に反映させるための仕組みです。
この記事では、棚卸資産評価損の概要や具体的な処理方法、さらには評価損のリスクを抑える方法について解説します。棚卸を行う事業担当者の方、これからのために知識を持っておきたい方はぜひご一読ください。
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情報の正確性や適切性について万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。本記事の情報を利用したことにより発生した損害等については責任を負いかねます。
棚卸資産(在庫)評価損とは?
棚卸資産評価損とは棚卸資産(在庫)の価値減少による会計上の損失のことです。
事業者が抱えている在庫は、自然災害や流行の変化などによる価値減少のリスクを常に抱えています。そしてそのリスクが現実のものとなった際に発生した損失を、会計上で処理するための勘定科目が棚卸資産評価損です。
在庫の価値が減少し想定よりも売値が下がると、利益が小さくなるだけにとどまらず損失が出てしまう可能性すらあります。棚卸評価損の会計処理を行い在庫価値を正しく認識できていれば、利益の減少や損失の発生を防ぐこともできるでしょう。
したがって、棚卸評価損についての理解は適切な会計処理に加えて健全な経営にも欠かせない知識です。
棚卸資産評価損を計上した時点では実際の損失は発生していません。損金算入できれば節税を見込めますが、認められるかどうかはケースバイケースです。会計処理にあたっては注意してください。
評価損を損金算入できる条件
棚卸資産評価損を損金算入できる条件は法令によって定められており、具体的には次の3つのいずれかに当てはまる場合とされています。
- イ 当該資産が災害により著しく損傷したこと
- ロ 当該資産が著しく陳腐化したこと
- ハ イ又はロに準ずる特別な事実
引用元:法人税法施行令第六十八条
それぞれの条件について簡単にまとめた表が下記です。
災害による著しい損傷 | 地震といった自然災害に起因する損傷によって、定価での販売が難しくなったもの。 |
---|---|
棚卸資産の著しい陳腐化 | (1)いわゆる季節商品で、過去の事例等から定価での販売が難しいとわかっているもの。 (2)形式・性能・品質等が著しく優れた新製品の発売によって、定価での販売が難しくなったもの。 |
準ずる特別の事実 | 破損や型崩れなどによって、定価での販売が難しくなったもの。 |
参照元:国税庁 第2款 棚卸資産の評価損
例としては、夏服が秋まで売れ残った、かなり高性能な新型家電の発売により旧型が売れづらくなった、といった状況がわかりやすいでしょう。
ただし上記に該当しない場合、つまり単なる物価変動・過剰生産・建値の変更等により発生した棚卸資産評価損については損金計上できないというのが国税庁の提言です。
評価損の発生リスクが高い商品
棚卸資産評価損の発生リスクが高いのは次のような商品です。
- 流行が激しい商品
季節ごと・一定期間ごとで流行の移り変わりが激しい商品(例:アパレル)
- イベントに特化した商品
特定時期での瞬間的な売上を見込んでいる商品(例:クリスマスグッズ)
- 新型が登場しやすい商品
機能的に優れた新型が登場し旧型が売れづらくなる商品(例:家電)
また物自体が破損・型崩れしやすい商品や、時価の変動が激しい商品も棚卸資産評価損が発生しやすいと言えます。
「評価損を損金算入できる条件」でも述べた通り単なる物価変動によって棚卸資産評価損が発生した場合は損金算入できません。判断に迷った場合は税理士等に相談し、適切な会計処理を心がけましょう。
棚卸資産(在庫)評価損の計算方法
棚卸資産評価損は下記のように計算できます。
棚卸資産評価損=棚卸資産の評価額ー棚卸資産の時価
例えば貸借対照表上での棚卸資産の評価額が10,000円、現実の市況に合わせた時価が8,000円の商品Aがあるとしましょう。この場合、下記の計算から商品Aにかかる棚卸資産評価損は2,000円です。
棚卸資産評価損(2,000円)=棚卸資産の評価額(10,000円)ー棚卸資産の時価(8,000円)
続く見出しで棚卸資産の評価額と時価の計算方法について解説します。
棚卸資産(在庫)の評価方法
棚卸資産の評価には原価法と呼ばれる方法が利用され、さらに詳細には個別法・先入先出法(FIFO)・平均法・最終仕入原価法・売価還元法の5つがあります。
評価方法 | 特徴 |
---|---|
個別法 | 個別の仕入れ価額で計算する |
先入先出法(FIFO) | 仕入れ順で計算する |
平均法 | 原価の平均で計算する |
最終仕入原価法 | 最終仕入の原価で計算する |
売価還元法 | 売価×原価率で計算する |
細かな違いはあるものの、どれも取得原価をもとに棚卸資産の価値を評価する方法です。
会計処理にあたってはどれか1つの評価方法に統一する必要があり、最終仕入原価法以外を採用する場合は届出を提出しなくてはいけません。届出がなければ自動的に最終仕入原価法が適用されるため注意しましょう。
それぞれの評価方法について下記で解説します。
個別法
個別の商品ごとの取得原価で評価する方法です。商品Aについて、下記のような例を考えてみます。
日付 | 適用 | 個数(単価) | 在庫残数 |
---|---|---|---|
4月1日 | 前期繰越 | 100個(1,000円) | 100個 | 6月5日 | 販売 | 50個 | 50個 | 11月19日 | 仕入れ | 100個(900円) | 150個 | 3月24日 | 販売 | 60個 | 90個 |
6月5日には前期繰越分を、3月24日には11月19日仕入れ分を販売していたとしましょう。すると期末での在庫90個の内訳は、前期繰越分が50個、11月19日仕入れ分が40個です。
このとき、商品Aの期末時点での棚卸資産評価額は86,000円とわかります。
棚卸資産評価額:(1,000円×50個)+(900円×40個)=86,000円
商品1つ1つの仕入れ価額が評価額に反映されるため、最も正確な棚卸資産の評価が可能です。しかし管理にかかる労力が商品数に比例して増え、小売をはじめとした多くの業界では現実的ではありません。
不動産や美術品など、商品数が少なくもともと1点ずつを個別に管理する厚利少売の業界に適した方法です。
先入先出法
先に仕入れた商品から先に販売するという前提に立った計算方法です。例えば商品Aについて次のような仕入れ・販売があったとしましょう。
日付 | 適用 | 個数(単価) | 在庫残数 |
---|---|---|---|
4月1日 | 前期繰越 | 100個(1,000円) | 100個 | 6月5日 | 販売 | 50個 | 50個 | 11月19日 | 仕入れ | 100個(900円) | 150個 | 3月24日 | 販売 | 60個 | 90個 |
先入先出法では実際にいつ仕入れた商品をいつ販売したかは考慮しません。
上記の場合、前期繰越分の100個と11月19日仕入れ分の10個の計110個を順に販売したこととして、11月19日仕入れ分の残り90個を棚卸資産とします。したがって期末時点での商品Aの棚卸資産評価額は81,000円です。
棚卸資産評価額:900円×90個=81,000円
先入先出法は実際の商品の動きと会計上の数値が一致しやすく、個別法には劣るものの資産価値を正確に評価しやすいと言えます。また個別法と比べると手間も少ないため商品数が多い業態でも比較的取り入れやすいでしょう。
平均法
棚卸資産の平均取得原価から資産価値を評価する方法です。また平均法の中にも総平均法と移動平均法の2種類があり、計算方法が異なります。
4月中に下記のような仕入れ・販売があった商品Aについて考えてみましょう。
日付 | 適用 | 個数(単価) | 在庫残数 |
---|---|---|---|
4月1日 | 前期繰越 | 100個(1,000円) | 100個 | 6月5日 | 販売 | 50個 | 50個 | 11月19日 | 仕入れ | 100個(900円) | 150個 | 3月24日 | 販売 | 60個 | 90個 | 3月29日 | 仕入れ | 80個(1,100円) | 170個 |
総平均法
総平均法はすべての取得原価に関して一律に平均して資産価値に反映させる方法です。
上記の例では、期末時点での平均取得原価と棚卸資産評価額を次のように計算します。
((1,000円×100個)+(900円×100個)+(1,100円×80個))÷(100個+100個+80個)=992.85…円
992.85円×170個=168,784.5円
計算がシンプルで、会計上の資産価値が一時的な価格の上下に影響されづらい点がメリットです。逆に、特定時点での原価を求められない点はデメリットでしょう。
移動平均法
移動平均法は仕入れのたびに平均原価を計算し資産評価額を算出する方法です。よって11月19日時点と期末時点(3月29日以降)での平均取得原価および棚卸資産評価額が異なります。
・平均取得原価 ((1,000円×50個)+(900円×100個))÷(50個+100個)=933.33…円 ・棚卸資産評価額 933.33…円×150個=140,000
・平均取得原価 ((933.33…円×90個)+(1,100円×80個))÷(90個+80個)=1,011.76…円 ・棚卸資産評価額 1,011.76…円×170個=171,999.7円
移動平均法は、総平均法と比較して会計処理の手間が増える分、特定時点での取得原価を正確に求められるメリットがあります。
最終仕入原価法
期末時点で直近の仕入での取得原価を、同じ商品の全在庫に適用する計算方法です。
日付 | 適用 | 個数(単価) | 在庫残数 |
---|---|---|---|
4月1日 | 前期繰越 | 100個(1,000円) | 100個 | 6月5日 | 販売 | 50個 | 50個 | 11月19日 | 仕入れ | 100個(900円) | 150個 | 3月24日 | 販売 | 60個 | 90個 |
上記のような商品Aがあった場合、期末時点の在庫90個の取得原価には、直近の11月19日の仕入れでの取得原価900円が適用されます。したがって期末時点での商品Aの棚卸資産評価額は81,000円です。
棚卸資産評価額:900円×90個=81,000円
最終仕入原価法では直近1回の取得原価しか考慮しません。よって最も単純で手間も少ない方法です。しかし時期によって原価の上下が激しい商品では、貸借対照表上での評価額が実態としての資産価値を反映しないという問題もあります。
売価還元法
値入れ率(≒利益率)といった指標をもとに商品をグルーピングし、グループごとに売価×原価率の計算を行って棚卸資産を評価する方法です。
例えば下記のような商品A・Bがあったとしましょう。
売価 | 在庫残数 | 原価率 | |
---|---|---|---|
商品A | 1,000円 | 100個 | 30% |
商品B | 500円 | 150個 | 30% |
この場合、商品A・Bを合計したグループの棚卸資産評価額は下記の計算から52,500円です。
棚卸資産評価額:((1,000円×100個)+(500円×150個))×30%=52,500円
売価還元法は個別の商品について原価を特定する作業が難しい、もしくは手間がかかりすぎる業界で用いられます。例えばスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの商品数が多い小売業です。
最終仕入原価法と比較すると正確に評価でき、計算も個別法や平均法ほど煩雑でありません。ただし商品のグルーピングにミスがあった場合には正確性が著しく損なわれるデメリットがあります。
棚卸資産(在庫)の時価の計算方法
棚卸資産の時価は主に次の3つのいずれかの方法で計算されます。
- 正味売却価額
売価から商品を売るのにかかる経費(見積追加製造原価と見積販売直接経費)を控除した金額
- 再調達原価
もう一度同じ商品を調達する際にかかると想定される適正な金額
- 合理的に算定された価額
将来キャッシュフローといった基準を用いて求められる金額
棚卸資産の時価算出は煩雑で適正な処理が難しく、税務調査の対象になりやすい項目です。税理士のサポートも受けつつ、根拠を揃えた上で慎重に計算しましょう。
棚卸資産(在庫)評価損の実務的な会計処理について
ここからは、棚卸資産評価損の実務的な会計処理について解説します。具体的な内容としては下記2点です。
- 評価損の計上方法
- 評価損の貸借対照表における仕訳方法
それぞれ具体例も用いて説明するので、会計処理の参考にしてください。
評価損の計上方法
棚卸資産評価損の損益計算書での勘定科目は売上原価もしくは特別損失です。また貸借対照表では、評価損の金額分、棚卸資産の価額が減少します。
ただし前述のように、棚卸資産評価損は必ずしも損金算入が認められるわけではありません。損金算入にあたっては、税務調査で精査された際に答えられる根拠・証拠をあらかじめ用意しましょう。
評価損を売上原価として計上するケース
損益計算書において、棚卸資産評価損は基本的に売上原価(製造業であれば製造原価)として計上します。
棚卸資産評価損として項目が設けられることはほぼありません。売上原価(=経費)を増やすことで利益を圧縮する形です。ほとんどの場合、注記事項に棚卸資産評価損相当額を記載する対応が取られます。
評価損を特別損失として計上するケース
特別な事由によって発生し、金額が大きい棚卸資産評価損については、特別損失として計上されます。
具体的な事由としては、自然災害や火事による在庫の毀損(きそん)や、部門の統廃合・事業撤退などが挙げられるでしょう。
評価損の貸借対照表における仕訳方法
棚卸資産評価損は、貸借対照表において次のように仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
棚卸資産評価損 | 10,000円 | 棚卸資産 | 10,000円 |
上記の仕訳によって棚卸資産の価値が10,000円減り、棚卸資産評価損を貸借対照表に反映させられます。
棚卸資産(在庫)評価損のリスクを減らす方法
棚卸資産評価損のリスクを減らすには在庫管理・発注予測を厳密に行うことが重要です。具体的な施策としてはマニュアルの見直し、作業効率の改善、ツールの導入などが挙げられるでしょう。
棚卸資産評価損が生じると、仕入時点での見込みよりも利益が減少してしまいます。棚卸資産評価損についての見直しは、会計処理の簡略化だけでなく健全な経営にも欠かせません。
棚卸資産(在庫)評価損としての処理を行わず廃棄する方法もある
棚卸資産評価損が発生しそうな場合に、本記事で解説したような会計処理を行わず、廃棄もしくは大幅な値下げのうえでの売却といった方法もあります。
棚卸資産評価損の実務的な会計処理には多くの手続き・書類が必要であり、計算も複雑です。また価値が減少した在庫を次期に繰り越したとしても、今後必ず売れる保証はありません。
在庫の管理にも経費がかかっていることを考慮すると、棚卸資産評価損が発生する商品については廃棄・大幅値下げで処分したほうが効率的な場合もあります。
具体的にどちらの対応のほうが良いかはケースバイケースですが、廃棄といった選択肢もあることは覚えておきましょう。
【まとめ】棚卸資産(在庫)評価損を正しく会計処理しよう
この記事では棚卸資産評価損の概要や具体的な会計処理について解説しました。
棚卸資産評価損は計算方法や損金算入できるか否かといったわかりづらいポイントが多く、かつ税務調査で追求されやすい項目です。税理士のサポートも受けつつ、適正な会計処理を心がけてください。
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?物損等の事実がある場合(災害等により著しく損傷したこと、著しく陳腐化したこと、その他の準ずる事実があったこと) ?棚卸資産の評価方法として「低価法」を選択し、棚卸資産の金額が時価を下回った場合
?に基づく評価損を計上する場合には、まず税法にて認められた事実要件に該当するのか否かを慎重に判断する必要があります。そのうえで、?、?のいずれの場合においても、評価損を計上する金額を判断する際に利用する「時価」について、当該「時価」が客観的な事実等に基づいたものであるのか判断する必要があります。
上記には専門的な判断を要する場合も多々あるため、税理士等と相談をしながら慎重に進めることをお勧めします。
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