同一労働同一賃金における定年後再雇用とは?メリットや判例も徹底解説
- 同一労働同一賃金の再雇用とは?
- 定年後に再雇用するメリット・デメリットとは?
- 同一賃金同一労働の判例とは?
少子高齢化の影響で労働人口が縮小する傾向にあるなか、高いスキルを持つ経験豊かな高齢者を定年再雇用する動きが強まっています。定年後に再雇用する際には、法令化された同一労働同一賃金制度に則った採用や待遇に気を付けましょう。
当記事では、定年後の再雇用を検討している経営者・人事担当者に向けて、同一労働同一賃金の再雇用に関して解説します。記事を読み終わったころには、再雇用における同一労働同一賃金を理解でき、社内の体制を検討できるようになるでしょう。
定年後に再雇用するメリット・デメリットや賃金格差による判例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
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同一労働同一賃金の再雇用とは?
同一労働同一賃金の再雇用に関して、以下のとおり解説します。
- 再雇用における同一労働同一賃金の概要
- 改正された高年齢者雇用安定法
- 定年再雇用の雇用形態
再雇用における同一労働同一賃金では、同じ業務を行う場合は雇用形態に関係なく同じ報酬が求められます。
再雇用における同一労働同一賃金の概要
同一労働同一賃金の原則に基づく定年後再雇用制度は、少子高齢化や労働人口の不足に対応するために導入されました。定年後再雇用と再就職の違いは、再就職は自ら職を探すプロセスを指しますが、定年後再雇用は元の企業に再び雇用される点です。
同一労働同一賃金の原則は定年後再雇用においても適用されるため、同じ業務を行う場合は、雇用形態に関係なく同じ報酬が求められます。
改正された高年齢者雇用安定法
高年齢者雇用安定法とは、定年の規制・高年齢者の雇用安定を図るため1986年に制定された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」のことです。60歳未満の定年禁止、定年を65歳未満に定めている事業者に、以下の努力義務を求めるものでした。
- 65歳までの定年引上げ
- 定年制の廃止
- 再雇用など65歳までの継続雇用制度の整備
2021年に施行された高年齢者雇用安定法の改正では、65歳に定められていた努力義務が「義務化」されました。さらに以下の項目が努力義務に追加されています。
- 70歳までの定年引上げ
- 継続的に業務委託契約を締結する制度
- 事業主の社会貢献事業に継続的に従事できる制度
新たに加えられた高年齢者の就業確保措置は「創業支援等措置」と呼ばれます。
定年再雇用の雇用形態
高年齢者雇用安定法改正によって、定年再雇用の雇用形態が変わりました。これまでの「嘱託社員」「短時間労働者」のほかに、創業支援等措置による「業務委託契約」が加わりました。
「事業主の社会貢献事業に継続的に従事できる制度」における社会貢献事業とは、不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業のことです。社会貢献事業は、事業主が自ら実施する、もしくは委託・出資する団体である必要があります。
定年後再雇用のメリット
定年後再雇用のメリットは、以下のとおりです。
- 人手不足を解消できる
- 顧客の安心・信頼感を継続できる
- 教育コストを削減できる
定年後の再雇用は人手不足を解消し、これまでに培った経験や知識を若手に伝えられる点が大きなメリットでしょう。
人手不足を解消できる
60歳以上の人材再雇用は、企業内の人手不足解消になるでしょう。業種によって人材不足の状況は違いますが、慢性的な人手不足で困っている業種では経験豊富な人材の再雇用は組織の安定につながります。
顧客の安心・信頼感を継続できる
定年を迎える前に顧客から信頼を得ていた人材の再雇用は、顧客への安心感を与えます。これまでの関係性を崩すことなく事業を継続できるメリットがあるでしょう。
再雇用によって急な引継ぎを実施する必要がなく、社内の間接業務を削減できます。
教育コストを削減できる
優れた人材を再雇用した結果、経験や知識を若手社員の育成に活かせる点も大きなメリットです。外部企業の研修をするよりも、経験値を含めた教育から学ぶことは非常に多いです。
再雇用する社員に対して、若手社員の教育を1つの目標に設定すると再雇用社員の価値はさらに高まるでしょう。
定年後再雇用のデメリット
定年後再雇用のデメリットは、以下のとおりです。
- 希望者は全員採用する必要がある
- 新しい人材を採用する機会を失う
再雇用を希望する社員は、必ず採用しなければならない点に注意しましょう。
希望者は全員採用する必要がある
定年後に再雇用を希望する人は、全員採用する必要がある点はデメリットです。すべての人材が優れた能力を持っているとは限らず、仕事の進め方や性格に課題のある社員も再雇用する必要があります。
再雇用の際には、周りによい影響を与えるポジションを検討しましょう。
新しい人材を採用する機会を失う
定年後に再雇用をすると、社内の人材コストが増加します。売上に対して適した社員数を算出した結果、新しい人材を採用する機会を失う場合がある点に注意しましょう。
若い世代が減少し、企業内の平均年齢が上がりすぎないように経営者は注意を払う必要があります。
同一労働同一賃金ガイドラインとは
高齢者の就労促進を目的とする高年齢者雇用安定法改正によって、定年再雇用の機会はますます多くなることが確実でしょう。
高齢者の就労促進と同様、働き方改革の「正規社員と非正規社員の格差是正」を具現化した「同一労働同一賃金」は、どのように関連するのでしょうか。同一労働同一賃金ガイドラインの概要は以下のとおりです。
雇用形態にかかわらない均等・均衡な待遇を確保するための法律「パートタイム・有期雇用労働法」の実現に向けたガイドラインです。どの待遇差が不合理なものか、あるいはそうではないのかを示しています。
短時間労働者への不合理な待遇差を禁じたパートタイム労働法、有期雇用労働者を対象にした「労働契約法第20条」が統合されたガイドラインです。2021年より施行され「不合理な待遇の禁止」として4つの指針が示されています。
不合理な待遇の禁止:基本給
基本給 | 能力・経験・業績・成果・勤続年数など労働の趣旨・性格に照らし合わせ、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給が必要 |
---|---|
昇給 | 勤続による労働者の能力向上に応じたものならば、同一の能力向上には同一の、違いがあれば違いに応じた昇給が必要 |
不合理な待遇の禁止:賞与
労働者の貢献度に応じて支給する賞与(ボーナス)は、同一の貢献であれば同一額の支払いが必要です。労働者を正しく評価して、貢献度に違いがあれば違いに応じて支給しましょう。
不合理な待遇の禁止:各種手当
役職の内容に応じて支給する手当は、役職に応じて正しく支給しなければなりません。役職に求められる仕事内容や立場が同一であれば同一に支給しなければならない手当は、以下のとおりです。
- 特殊作業手当
- 特殊勤務手当
- 精皆勤手当
- 時間外労働手当の割増率
- 深夜・休日労働手当の割増率
- 通勤手当・出張旅費
- 食事手当
- 単身赴任手当
- 地域手当
不合理な待遇の禁止:福利厚生・教育訓練
福利厚生・教育訓練も、労働条件に応じた同一の待遇を整備しなければなりません。具体的な待遇面は以下のとおりです。
- 食堂・休憩室・更衣室などの福利厚生施設の利用
- 転勤要件が同一の場合の転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断にともなう勤務免除・有給保証
- 病気休職(無期雇用の短時間労働者は正社員と同一、有期雇用労働者は期間を踏まえたうえで正社員と同一の付与)
- 法定外の有給休暇・その他の休暇(同一の勤続期間であれば同一の付与)
- 教育訓練
同一労働同一賃金ガイドラインと定年再雇用の関係
同一労働同一賃金ガイドラインは、雇用形態に関わらず公正で均等な待遇を求めています。定年再雇用者の待遇が不合理かどうかを判断する際には、同ガイドラインを参考にしましょう。
再雇用者が正社員と同じ業務条件で働いているにも関わらず、給与に差がある場合は不合理と見なされます。たとえば、基本給の減額や手当の削減などが不合理な待遇差には注意しましょう。
再雇用後の待遇格差を焦点とした判例:長澤運輸事件
定年後に有期雇用の嘱託社員として再雇用された3名が原告、無期雇用の正社員との賃金格差を不服として訴えを起こした長澤運輸事件を紹介します。
業務内容や責任が同一であるにかかわらず、正社員との待遇差があることが焦点になりました。正社員の基本給は在籍給と年齢給の合計で、嘱託社員は基本賃金に歩合給を合計した給与になっていました。嘱託社員に「能率給」「職務給」「役付手当」「精勤手当」「住宅手当」「家族手当」「超勤手当」がないことも不当と訴えています。
最高裁判所の判決
最高裁まで争われた長澤運輸事件は、原告が全面的に勝利した一審判決、被告が全面勝利した控訴審で判断がわかれたことが特徴です。注目された最高裁での判決も一審・控訴審とは異なる内容となりました。
原告側の主張は、賃金の総額が正社員と比べて平均21%程度低いことを不当としたものでした。最高裁の判決では、定年再雇用された原告側の待遇差を労働契約法20条の「その他の事情」として考慮されるべきであるとしています。判決の結果「精勤手当」「超過手当」のみ不合理な待遇差があると認めるにとどまりました。
不合理の判断は各賃金項目を個別に考慮
最高裁の判例から、定年再雇用者の待遇差・同一労働同一賃金に関する影響がわかります。定年再雇用者の不合理な待遇差は、個々の労働条件による賃金総額ではなく、各賃金項目ごとに個別に判断される認識を世間に与えたといえるでしょう。
不合理な労働条件の禁止を定めた労働契約法20条では、不合理かどうかの判断方法を、以下のようにしています。
- 職務の内容(業務内容と責任の程度)
- 職務内容・配置の変更の範囲
- その他の事情
定年再雇用の場合、定年前後で1および2が変更されることが一般的であり、待遇差があっても特段の理由がない限り3に当たると判断された形です。
再雇用後の待遇格差を焦点とした判例:名古屋自動車学校事件
定年後に有期雇用の契約社員として再雇用された2名が原告、無期雇用の正社員との賃金格差を不服として訴えた名古屋自動車学校事件を紹介します。
業務内容や責任が同一であるにかかわらず「基本給」「精励手当」「家族手当」「賞与」などの待遇差があることを不当としたものです。
名古屋地方裁判所の判決
名古屋自動車学校事件は、長澤運輸事件における最高裁の判断とは若干異なる判決となったことが注目ポイントです。
定年再雇用が労働契約法20条の「その他の事情」に当てはまる点では長澤運輸事件と同様です。しかし、再雇用後に48.8%を下回る水準であった基本給の待遇差は、退職時の60%を下回る限度で不合理であると認められました。
賞与も同様の判断が下されましたが、長澤運輸事件と同様、家族手当に関しては不合理とはいえないと判断されています。
基本給の待遇差も違法になる可能性がある
名古屋地方裁判所の判例が、再雇用社員と正社員の基本給待遇差も違法になる可能性があると示したといえるでしょう。
退職時の60%を下回る限度で基本給待遇差が不合理であると認められた背景にある「労働者の生活保障の観点」も見逃せません。名古屋地方裁判所が示した「60%」の基準は、定年再雇用制度を採用する企業の、同一労働同一賃金確保に大きな影響を与える可能性があります。
同一労働同一賃金ガイドラインに沿った再雇用者の待遇とは?
ポイントの1つ目は、労働契約法20条の「その他の事情」を明確にしておく必要があります。たとえば、再雇用後の「職務の内容」「職務内容・配置の変更の範囲」などです。勤務状況は実態で判断されるため、再雇用者の職務内容をチェックする管理職の責務も重要になるでしょう。
2つ目のポイントは、定年再雇用で給与水準を引き下げる際に注意すべき事項です。「職務の内容から給与額を合理的に説明できる理由」および「労働者の生活保障の観点」を考慮しなければなりません。名古屋地方裁判所の判例である「60%を下回る限度」は、定年再雇用者の給与待遇を決定する際の基準となるでしょう。
雇用形態ごとの社内制度を整備する
定年再雇用で考えられる「嘱託社員契約」「短時間労働者契約」「業務委託契約」の雇用形態制度の整備が重要です。社内制度を整備する際には、各種手当も含めて検討しましょう。
再雇用者に手当を支給しない場合は合理的な理由が必要であり、理由が説明できなければ、再雇用者にも支給しなければなりません。定年再雇用制度を整備する際は、正社員に支給している手当も含めて「整理統合」する必要もあるでしょう。
再雇用までのスケジュールを決めておく
従業員が受け入れられない条件を提示して退職せざるを得ない状況を作ると、高年齢者雇用安定法に抵触する形になります。お互いが納得できる状況を作るためにも、定年を迎える従業員が再雇用に至るまでのスケジュールを決めておくことが重要です。
たとえば、定年の1年前から再雇用の意思を確認し、3カ月前までに複数のオファーを用意するスケジュールを立てます。定年再雇用制度が整備できていれば、従業員のスキルや貢献度も加味しながら最適なオファーを提示できるでしょう。
まとめ
再雇用における同一労働同一賃金の原則は、同じ業務を行う場合は雇用形態に関係なく同じ報酬が求められます。定年再雇用は、人手不足解消・顧客との関係性維持・教育コストの削減などがメリットです。定年再雇用にのガイドラインをよく理解し、再雇用のルール整備に取り組みましょう。
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1980年3月23日生まれ。社会保険労務士・1級FP技能士・CFP認定者。令和3年度 中小企業・小規模事業者等に対する働き方改革推進支援事業(専門家派遣事業) 派遣専門家。大学卒業後、外資系生命保険会社の営業、資格の専門学校の簿記・FPの講師、不動産会社の経営企画を経て現在に至る。
この規定は、パートや有期雇用と正社員といった一般の雇用のついてだけでなく、高年齢の再雇用においても同様の規定が適用されるということに注意が必要です。
同一労働同一賃金ガイドラインでは、基本給・賞与や昇給、各種手当といった部分における待遇面について、正当な理由なく差を設けることを禁止することを趣旨としているため、ガイドラインの内容をしっかりと確認したうえで、社内の雇用制度についての規定を整備することが求められています。
また、裁判においても、待遇面について「項目ごと」に違法であるかの判断が行われているため、それぞれの雇用形態ごとの内容における制度の違いについて、従業員に対しても周知させることも併せて必要なことといえます。
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