人件費削減による4つのメリットとは?リスクや効果的な削減方法を徹底解説!
- 人件費削減によるメリットとは?
- 人件費削減によるリスクとは?
- 効果的に人件費を削減する方法とは?
コスト削減が課題となっている企業において、人件費の削減は効果が出やすい施策の1つです。人件費削減とは、社員の人数を減らすだけではなく、採用計画を見直したり業務の無駄を省いたりする方法も含みます。
当記事では、コスト削減の対策を検討している責任者に向けて、人件費削減によるメリット・デメリットを解説します。記事を読み終わった頃には、人件費を改めて見直し、人件費削減の施策を取れるようになるでしょう。
人件費削減におけるリスクや効果的な削減方法も解説するため、ぜひ参考にしてください。
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人件費とは?|従業員にかかるコスト全般
人件費とは、会社で働く従業員に関するコスト全般です。人件費には、以下のコストが挙げられます。
- 給与
- 賞与
- 法定福利費(健康保険・介護保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険)
- 通勤定期代
- 退職金
- 研修費・教育費
企業全体のコストのなかで、人件費が占める割合は業種によってさまざまです。工場が自動化された製造業では、10%〜20%が人件費ですが、飲食店やサービス業であれば40%〜60%になります。
従業員1名の人件費を計算する際には、福利厚生費・社会保障費・旅費交通費が加わるため給与額の1.5倍〜2倍で計算しましょう。
経営者が人件費削減したい理由
経営者が人件費を削減したい理由は、以下のとおりです。
- 人件費が固定費の多くを占めているため
- もっとも削減しやすい固定費が人件費のため
会社としての収入が減少している場合は、出ていくお金である経費・損金を減らして利益を確保しようと経営者は考えます。経費・損金には、売上に応じて変動する流動費と売上に関係なく発生する固定費があり、より高い効果が得られるものが「固定費の削減」です。
人件費が固定費の多くを占めているため
固定費には減価償却費・固定資産税・オフィスの家賃などが含まれますが、大きな割合を占めているものが人件費です。給与や賞与などの直接的な費用のほかに、社会保険料や福利厚生費用などの間接的なものも含まれています。会社が支払う人件費の総額は、一般的に給与の2倍程度になるでしょう。
たとえば、従業員の給与を10%カットした場合、10%以上のコスト削減効果が期待できます。年収400万円の従業員を1名整理解雇できれば、コスト削減効果は年収の約2倍、おおよそ年間800万円のコスト削減となるでしょう。
もっとも削減しやすい固定費が人件費のため
減価償却費・固定資産税・オフィスの家賃などの固定費を削減することは困難です。賃料の安いエリアにオフィスを移設する方法もありますが、店舗を構えている企業であれば移転も難しいでしょう。
人件費削減は、従業員の理解さえ得られれば実行可能です。労働法で保護されているとはいえ、もっとも効果的かつ、手をつけやすいコスト削減策が人件費削減といえます。
人件費削減による4つのメリット
人件費削減によるメリットは、以下の4つです。
- 他のコスト削減にもつながる
- 人件費削減による資金や従業員の再配置ができる
- 融資を得られやすくなる
- 業績改善による株価の上昇が期待できる
社員1名に必要な費用は、給与に関する費用だけではなく、他のコスト削減にもつながります。人件費削減によって得られる効果を算出し、よりメリットが得られる方法を選択しましょう。
1. 他のコスト削減にもつながる
新たな採用人員の抑制で、社内の従業員数が減少するだけではなく人件費に関係するコスト削減が期待できます。たとえば、レンタルしているパソコンや机・椅子などの什器も減少するため、より多くのコスト削減につながるでしょう。
従業員1名にかかる人件費とあわせて、関係する費用も算出しておくと収支対策が取りやすくなります。
2. 人件費削減による資金や従業員の再配置ができる
業務効率化などによる適切な人件費削減によって生じる資金は、既存事業の拡大や生産能力向上・新規事業の開発などに活用できます。業務の効率化を行い、従業員が新たにチャレンジできる環境への配置転換もでき、組織全体のスキルアップも望めるでしょう。
人件費削減を実行してから検討するのではなく、事前に社内の課題を洗い出して優先順位をつける戦略が重要です。
3. 融資を得られやすくなる
金融機関は、企業の財務状況や将来の見通しを審査する際に、人件費の削減や抑制などの取り組みも検討材料にします。
企業の規模に見合った適切な人件費管理は、金融機関からの信頼を高め、融資を受けやすくする点がメリットです。売上の増減だけではなく、人件費の削減によって得られる営業利益が向上する計画を立てましょう。
4. 業績改善による株価の上昇が期待できる
人件費の削減は、会社全体のコスト削減につながり、営業利益の向上が見込めます。
営業利益を新しいサービスや研究開発に活用する計画が立てられていると、投資家やステークホルダーからの評価が上がるでしょう。業績の向上が認められると、株価の上昇が期待できます。
人件費削減による4つのリスク
人件費削減によるリスクは、以下の4つです。
- 優秀な人材の流出
- モチベーション低下による生産性悪化
- 従業員への負荷増大・残業時間の増加
- さらなる生産性低下・業績悪化
会社から優秀な人材が流出すると、売上・利益の向上につながらないリスクがあります。人件費削減を行う際には、従業員のモチベーションが低下しないように注意しましょう。
1. 優秀な人材の流出
「整理解雇」や「希望退職を募る」方法で人件費削減に取り組むと、優秀な人材が流出するリスクがあります。整理解雇するためには以下の4つの要件を満たす必要があり、経営者の思惑どおりの人材を残せるとは限りません。
- 人員整理の必要性
- 解雇回避努力義務の履行
- 解雇対象の従業員を選定する合理性
- 手続きの正当性
希望退職を募る場合は、もっと露骨に優秀な人材が流出するでしょう。優秀な人材ほど状況を把握する能力があり、どこの会社に転職しても活躍できる自信を持っているためです。
転職によるキャリアアップに抵抗感を感じない若い世代になるほど、危ない会社を見切るスピードは速くなります。結果的に、経営資源である「ヒト」のパフォーマンス低下は避けられません。
2. モチベーション低下による生産性悪化
給与削減・賞与カットなどの人件費削減策は、従業員のモチベーションが著しく下がり、生産性の低下を招きます。従業員に対して「給与は減るけど仕事は今まで以上に頑張って」と伝えても、納得して働く従業員はいないでしょう。
モチベーションが高まっていない職場では、生産性が低下するだけではなく、働く意欲がある優秀な従業員が退職する可能性があります。生産性が低下しているときに優秀な人材が流出すると、さらなるパフォーマンスの低下は避けられません。
3. 従業員への負荷増大・残業時間の増加
人件費削減の施策によって従業員数が減少した場合、仕事量が減るわけではありません。人員が減少してオーバーフローした仕事は、残った従業員に割り振られることになります。従業員1人ひとりへの負荷が大きくなり、残業しなければ仕事が終わらない状況に陥りがちです。
売上が低下しているなかで、負荷がかかっている社員の働きに対して給与を増加させることは難しいでしょう。サービス残業やステルス残業の横行が目立ち、溜まった不満は「人材の流出」の事態につながる可能性が高くなります。
4. さらなる生産性低下・業績悪化
働き方改革関連法案が順次施行されたことにより、従業員の残業時間は厳しく上限が設けられています。仕事の増加にあわせて従業員の働く時間が超過すると、残業代を支給しなければなりません。残業代を払えなくなると労働法に違反するだけではなく、さらなる人材流出・生産性低下・業績悪化を引き起こし負のスパイラルになるでしょう。
給与削減や整理解雇などの一般的に理解されている人件費削減策は、会社を立て直す施策の最終手段と考えます。
効果的に人件費を削減する方法3選
効果的に人件費を削減する方法は、以下の3つです。
- 課題のある部門の業務を可視化する
- 残業代を削減する
- 新入社員を抑制する
従業員を解雇するだけではなく、業務の標準化や効率化による業務量削減も人件費の削減対策といえるでしょう。
1. 課題のある部門の業務を可視化する
人件費の削減をする際に、課題のある部門の業務を可視化してネックになっている部分を明確にしましょう。部門に所属している従業員の業務ボリュームを算出し、業務フローを作成して第三者からもわかるように表現すると効果的です。
課題を詳細まで明確にし、優先順位をつけて課題解決に取り組みます。従業員が実施している業務の無駄をなくし、少ない人数で業務を推進できる体制を構築しましょう。
2. 残業代を削減する
人件費の予算から乖離しやすいものが想定外の残業代です。事業計画で立てた残業代が実態と大きくかけ離れているときは、残業代の削減に取り組む対策をとりましょう。
残業が発生している原因をつきとめ、場合によっては、人を増やした方が効率的に業務をまわせることもあります。
3. 新入社員を抑制する
社内の人件費を削減するためには、新しく入社する社員の採用計画を見直します。社内で働いている従業員削減による社員のモチベーション低下を起こさずに人件費の削減ができるでしょう。
たとえば、新入社員を10名採用する計画から3名採用する計画に見直した場合、7名分の給与だけではなく教育費・研修費も削減できます。業績が悪化しているときは新しい社員の採用枠を狭くし、業績が回復してきたときに見直す戦略が効果的です。
人件費最適化に欠かせない制度作り
ビジネスを成長プロセスに乗せて好循環を生み出し、人件費を下げたことによる利益を従業員に還元する制度をつくりましょう。
利益の還元・分配に公平性がなければ、従業員のモチベーションは上がりません。人件費最適化と同時に推し進めるべき「人事評価制度」の整備について、以下のとおり解説します。
- 人事評価制度とは
- 人事評価制度の目的・意義
- 人事評価制度の主な方法
- 新たな評価手法「ノー・レイティング」
人事評価制度とは
人事評価制度とは、従業員のパフォーマンス・業績・能力などを一定の基準で評価し、賃金や待遇などに反映させる仕組み・システムのことです。日本では、従来から年功序列を重視した賃金体系が定着していましたが、産業構造の変化によって成果主義へシフトする会社が増えています。
公平・明確・絶対的な基準の評価を周知する人事評価制度は、従業員がブレることなく目標達成に向けて力を発揮できる環境を整えられます。従業員1人ひとりのパフォーマンスを最大化し、生産性向上・売上増加の好循環を生み出すことに役立つでしょう。
人事評価制度の目的・意義
人事評価制度の目的は従業員の待遇を決めるだけではありません。従業員1人ひとりが向かうべき方向を指し示すことにより、会社の理念やミッションを実現させる目的・意義があります。以下の3つが主な人事評価制度の目的・意義です。
- 理念・ミッション・ビジョンの実現
- 従業員の待遇決定・最適配置
- 従業員の育成
目的・意義を実現させるため、人事評価制度は一般的に以下の3つの制度で構成します。
評価制度 | 従業員の能力・業績を一定の基準で評価する |
---|---|
等級制度 | 従業員の評価・能力に応じて役割・職務を与える |
報酬制度 | 評価・等級をもとに報酬を決定する |
人事評価制度の主な方法
人事評価の各制度を成り立たせるためには、評価の対象となる「評価項目」を明確にしなければなりません。
一般的には、目標の達成度を評価する業績評価、従業員個々の能力を評価する能力評価、従業員個々の行動を評価する情意評価の3つがあります。代表的な評価方法は、以下のとおりです。
目標管理制度(MBO) | 従業員1人ひとり、もしくはチームごとに自主的目標を定め、会社と認識を共有しながら達成率を管理していく手法 |
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重要業績評価指標(OKR) | 1カ月から3カ月の短いスパンで、従業員1人ひとり、あるいはチームの目標達成率を管理していく手法 |
コンピテンシー評価制度 | 高い業績を誇る人材の行動特性(コンピテンシー)を評価基準に設定し、それを元に従業員を評価していく方法 |
360°評価 | 上司・同僚・部下、あるいは他部署の従業員が評価者となり、多面的に1人の従業員を評価していく手法 |
新たな評価手法「ノー・レイティング」
従来の人事評価制度である等級評価(レイティング=Rating)をしないノー・レイティングと呼ばれる人事評価制度を採用する企業も増えています。
ノー・レイティングでは、業績評価・プロセス評価は実施されますが、等級・報酬評価とは結びつきません。週・月単位、あるいはプロジェクトごとなどの短いスパンで「評価」と「フィードバック」が繰り返されます。
上司・部下間でのコミュニケーションを頻繁に取って人材育成につなげ、個々人のパフォーマンス向上を促すことがノー・レイティングの狙いです。個々の従業員を正当に評価し、パフォーマンスを高めて生産向上を実現できるノー・レイティングは、成長過程にある企業でも採用しやすいでしょう。
まとめ
会社の業績が悪化すると、固定費の多くを占める人件費の削減を検討する経営者も多いでしょう。人件費削減は、他のコスト削減にもつながり、従業員の再配置や銀行からの融資を受けやすくなるなどのメリットがあります。一方で、従業員のモチベーション低下を引き起こしやすく、悪循環のリスクが発生する可能性も忘れてはいけません。
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保有資格:社会保険労務士、行政書士。平成26年より神奈川県で社会保険労務士として開業登録を行い、以後地域における企業の人事労務や給与計算のアドバイザーとして活動を行う。近時はインターネット上でも活発に活動しており、クラウドソーシングサイトやSNSを通した記事執筆や監修を中心に行っている。
また従業員の生活に直結する給与の喪失に繋がる整理解雇が、理解を得づらいのは当然であり、最悪の場合には訴訟にまで発展するケースが見られます。整理解雇は即効性のある手段ではありますが、あくまで最後の手段であると考え、出来得る限りは他の手段による人件費削減を図るべきでしょう。
人件費削減においては、人材流出や従業員のモチベーションにも気を配らなければなりません。人件費削減は、給与の減少や手当の廃止など、従業員の待遇悪化と繋がっていることが多く、待遇悪化を嫌った従業員の離職やモチベーション低下による生産性の低下を招くことにもなりかねません。
人材流出や従業員のモチベーションを維持したまま人件費削減を行うことは、容易いことではありませんが、利益向上のために行う人件費削減により、かえって利益率を低下させては本末転倒です。利益向上という本来の目的を果たすためにも、しっかりと何が無駄で何が必要かを洗い出し、効率的な人件費削減に繋げてください。
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