少額訴訟で勝訴した場合、被告側に裁判費用の支払いを請求できます。話し合いで和解した場合、裁判費用は債権者・債務者双方の負担です。相手に負担させることはできません。
少額訴訟は、勝訴しても債権回収が難しい面があります。債権をスムーズに回収するには、かかった費用をすべて相手に負担させず、できるだけ関係を良好に保つ努力が必要です。
「少額訴訟を検討しているけど、費用がどのくらいか知りたい」方、必見!請求額が60万円以下の場合「少額訴訟」を利用できます。
本記事では、少額訴訟にかかる費用や流れを解説します。少額訴訟を自分でする場合と士業に依頼する場合の費用比較や、費用を抑える方法も紹介します。記事を読み終わる頃には、少額訴訟の費用相場を把握し、必要に応じて訴訟を起こせるでしょう。
少額訴訟を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
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少額訴訟とは、60万円以下の金銭請求に対して起こせる訴訟です。基本的には1回の裁判で済み、判決や決定が比較的早くおりる点がメリットといえます。
少額訴訟と通常訴訟の大きな違いは、請求額が60万円を超えるかどうかです。60万円以下の場合、少額訴訟が利用できます。裁判期日の長さも違い、少額訴訟は1日で終了し、通常訴訟のように長期にはなりません。
判決後のアクションや判決までの時間も異なります。少額訴訟では異議申立てはできますが、上級裁判所へ申立をする控訴や上告ができません。
少額訴訟 | 通常訴訟 | |
---|---|---|
訴訟対象 | 60万円以下の金銭請求 | 60万円を超える金銭請求およびその他 |
裁判期日 | 原則1日 | 3カ月〜2年を超える長期 |
速達 | 直接速達 | 直接送達と公示送達 |
裁判所 | 簡易裁判所 | 簡易裁判所 家庭裁判所 地方裁判所 高等裁判所 最高裁判所 |
裁判にかかる費用 | 約1万円〜約20万円 | 数10万円〜数1,000万円 |
判決後のアクション | 異議申立て | 控訴・上告 |
判決までの所要期間 | 約2週間から1カ月 | 数年 |
少額訴訟制度がよく利用されるケースは、以下のとおりです。
従業員に給与や手当を過払いし、返還を求めても応じない際に少額訴訟をするケースがよくあります。会社側が「不当利得返還請求権」を行使できるため、賃金の返還が可能です。
賃金返還請求で少額訴訟を起こす際は、過払いの事実がわかる証拠書類や給与明細書を用意し、被告側が返還を認めざるを得ないように準備しましょう。
民法第703条「不当利得の返還義務」に該当し、会社の過失に関わらず、従業員は過払い分を会社に返還する義務があります。
賃貸の明け渡しをする際に、敷金を貸主から不当な理由で返還されない場合は、少額訴訟に向いています。契約時に敷金が発生する場合は「敷金返還請求権」を借主が行使可能です。
ただし、敷金は修繕費用や原状回復などの正当な理由で差し引いた分を返還される場合は問題ありません。一切返金されない場合は、悪質の可能性が高いため、少額訴訟を視野に入れておくといいでしょう。
民法622条の2第2項に該当し、借主が賃貸を明け渡す際に、貸主に対して原状回復費用等を控除した敷金を返還する義務があります。
少額の商品やサービスを提供し、振込期限までに代金が支払われず、その後も支払いに応じない場合で少額訴訟を起こすケースがあります。
商品やサービスを提供して使用した証拠や請求書を抜け目なく準備できると、勝訴する確率が高いでしょう。少額訴訟で請求が認められ、それでも被告側が請求に応じない場合は、強制執行で財産の差し押さえの対象になります。
給与の未払いが発生し、異議申し立てをしたにもかかわらず会社側が支払いに応じない場合は、少額訴訟を起こすといいでしょう。従業員の雇用形態に関わらず、給与の支払いを会社側に請求する権利があります。
労働基準監督署に相談したうえで改善しない場合は、弁護士に相談し、確固たる未払いの証拠を準備して少額訴訟に備えましょう。60万円以上の請求がある場合は、通常訴訟になるため注意が必要です。
案件の受注者が契約違反をしたり、相手から暴行されたりなどの不法行為がある場合は、少額訴訟を検討してみましょう。たとえば、不法行為でケガを負った際は、治療費や慰謝料などを損害賠償として請求できます。
損害賠償責任が認められるためにも、損害が起きた過程や因果関係がわかる証拠を準備し、被告側に提示しましょう。自分で準備は可能ですが、弁護士に依頼するとスムーズです。
少額訴訟を利用する条件として、次の4つが挙げられます。
被告が同意しなければ、少額訴訟そのものができなくなる点に注意が必要です。
少額訴訟の金額には、利息や違約金は含まれません。利息や違約金と請求額の合計が60万円を超えても、もともとの請求額が60万円以下であれば少額訴訟を利用できます。
少額訴訟に必要な書類は、主に5つです。
少額訴訟をする際に、訴訟内容や原告と被告の情報記載する書面として、訴状の正本1通と被告人数分の副本が必要になります。
正本は収入印紙を貼り付けて裁判所に提出します。副本は被告に送付するもので、正本と同一のものです。いずれも記名押印,各頁の余白に捨印を押印して提出する必要があります。
訴状の用紙は裁判所や裁判所のWebページからダウンロードが可能です。
証拠書類の写しとして、以下の請求に関する書類があるといいでしょう。
上記の写しを、被告の人数に1部を加算した部数を準備する必要があります。
申立ての際に、請求内容に応じた手数料と郵便切手が必要です。手数料は収入印紙で納付します。
印鑑は認印で可能ですが、スタンプ式は受け付けていません。法人の場合は代表者印が必要です。
申し立てをするものが法人の場合には登記謄本が必要になります。原告と被告の3カ月以内に発行された登記謄本の原本を提出します。
また、当事者が未成年の場合は親権の証拠となる戸籍謄本の原本を用意が必要です。3カ月以内に発行された原本を提出しましょう。
少額訴訟は、自分でするか専門家に依頼するかによって費用が大きく変わります。
上記3つのケースそれぞれの費用相場を紹介します。
少額訴訟は、自分でした場合が一番費用が抑えられます。東京簡易裁判所における裁判費用は以下のとおりです。
収入印紙 | 1,000円〜 |
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予納郵券代 | 5,200円〜 |
強制執行代の手数料 | 9,330円〜 |
合計 | 15,530円〜 |
少額訴訟は「被告の住所地を管轄する簡易裁判所」で行われます。裁判所が遠方であれば、交通費がかかる点にも注意が必要です。
少額訴訟の裁判費用(手数料)は請求金額に応じて納付額が定められています。金額は1,000円から始まり、10万円ごとに1,000円ずつ加算されます。訴状用紙の提出と一緒に収入印紙で納付します。
訴額 | 裁判費用(手数料) |
---|---|
10万円まで | 1,000円 |
20万円まで | 2,000円 |
30万円まで | 3,000円 |
40万円まで | 4,000円 |
50万円まで | 5,000円 |
60万円まで | 6,000円 |
裁判では、訴状や判決などの書面を被告に送付するための「予納郵券代」が必要です。「予納郵券代」とは切手代のことです。現金ではなく、必要な額の切手を購入して提出します。
東京簡易裁判所の場合、5,200円分の切手が必要です。裁判終了後、使われなかった切手は返却されます。額面の内訳は次のようになっています。
500円 | 5枚 |
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100円 | 10枚 |
84円 | 10枚 |
50円 | 10枚 |
20円 | 10枚 |
10円 | 10枚 |
5円 | 10枚 |
2円 | 5枚 |
少額訴訟で原告が勝訴しても相手が支払いに応じない場合、強制執行(少額訴訟債権執行)により、被告の預貯金・給料などを差し押さえできます。
東京簡易裁判所で強制執行を申し立てる際の手数料は、次のとおりです。
印紙代 | 4,000円(債権者・債務者が各1名で債務名義1通の場合) |
---|---|
予納郵券代 | 5,330円 |
参照:申立手数料・予納郵便切手等一覧表(少額訴訟債権執行)|裁判所
弁護士に手続の代行や代理人を依頼した場合、相談料や着手金、報酬金がかかります。弁護士に依頼したときの費用相場は、次のとおりです。
裁判費用 | 6,000円 |
---|---|
予納郵券代 | 5,200円 |
相談費用 | 5,000円〜 |
着手金 | 30,000円〜60,000円 |
報酬金 | 90,000円〜120,000円 |
日当・交通費ほか | ケースバイケース |
合計 | 137,200円〜 |
弁護士に少額訴訟を依頼する場合、相談から始めます。相談費用の相場は、1回30分〜1時間で5,000円程度です。弁護士事務所によっては無料相談を実施している場合もあるため、上手に活用したいところです。
無料といっても、さまざまな条件がついている可能性があります。無料と有料相談の違いを把握したうえで利用することも重要です。
相談を経て少額訴訟を弁護士に正式に依頼すると、着手金がかかります。着手金の相場は、訴訟金額の5%〜10%程度です。着手金は、訴訟の結果に関わらず必要なお金です。敗訴したからといって返金されるわけではないため注意しましょう。
少額訴訟で勝訴した場合、回収に成功した金額の15%〜20%程度を報酬金として支払う必要があります。60万円の少額訴訟で全額を回収できた場合、報酬金は90,000〜120,000円程度です。
弁護士に別途調査を依頼した場合は、日当が必要になるケースがあります。調査場所が遠方だった場合は、交通費や宿泊費の負担も必要です。
2003年から、簡易裁判のみ司法書士にも訴訟代理権が与えられるようになりました。少額訴訟は簡易裁判のため、司法書士にも依頼が可能です。訴訟額が60万円だった場合、司法書士に依頼した費用相場は次のとおりです。
裁判費用 | 6,000円 |
---|---|
予納郵券代 | 5,200円 |
相談費用 | 5,000円程度 |
訴訟状作成料 | 30,000円 |
期日日当 | 8,000円〜10,000円 |
訴訟代理費 | 50,000円 |
成功報酬 | 48,000円〜120,000円 |
日当・交通費ほか | ケースバイケース |
合計 | 152,200円〜226,200円程度 |
弁護士に依頼するときと同じく、30分〜1時間で5,000円程度の「相談」からはじめることになります。司法書士も、初回の無料相談を行っている場合があります。無料相談を活用することで、費用が安くできるでしょう。
少額訴訟の訴状作成に不安が残る場合、司法書士に訴状作成のみを依頼し手続き以降は自身で行う方法があります。司法書士に訴状作成を依頼した場合の費用は、一般的には30,000円前後です。加えて、裁判後に回収できた金額の8〜10%を支払います。
裁判期日当日は司法書士に同行してもらいたい場合、司法書士に支払う「期日日当」が追加で必要になります。期日日当の相場は約8,000円〜10,000円です。
司法書士には少額訴訟を含む簡易裁判の代理権が与えられているため、裁判の代理人として弁護士同様のサービスを提供できます。訴訟代理費用の相場は、50,000円前後です。裁判に勝訴した場合は、裁判後に回収できた金額の15〜20%が加算されます。
司法書士に依頼する場合、成功報酬を支払う必要があります。成功報酬の費用相場は、裁判後に回収できた金額の8〜20%程度です。司法書士に何を依頼したかによって、成功報酬の相場は変わります。
訴状作成のみ依頼した場合 | 回収できた金額の8%〜10% |
---|---|
当日同行を依頼した場合 | 回収できた金額の8%〜10% |
訴訟を代理で行った場合 | 回収できた金額の15%〜20% |
現地調査で日当と交通費が発生する場合があります。遠方の場合は出張費も発生するでしょう。調査の時間や現場までの距離で費用が大きく変動します。
少額訴訟を弁護士と司法書士に依頼したときの料金体系例を、それぞれ1社ピックアップしました。
参照:瑞木総合法律事務所
着手金 | 報酬金 | |
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少額訴訟 | 100,000円 | 16%(経済的利益が300万円以下の場合) |
参照:高田法務司法書士事務所
着手金 | 報酬金 | |
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少額訴訟 | 28,000円 | 経済的利益の17% |
専門家に依頼する場合でも、少額訴訟の費用を抑えるためにできることがあります。少額訴訟の費用を抑える方法は、次の3点です。
多くの弁護士や司法書士事務所では、初回の相談を無料としています。無料相談で状況や訴訟のやり方を相談し、自分で少額訴訟をすることで、費用を抑えることが可能です。
書類を専門家に依頼せず自分で作成することで、費用が安く抑えられます。
訴状や書類を自分で書く場合、最寄りの簡易裁判所で書き方を教えてもらうことが可能です。訴状や書類の作り方に不安がある場合は、簡易裁判所へ尋ねましょう。
弁護士保険は、入院給付金のように弁護士に依頼した費用を給付金として受け取れる保険です。弁護士保険に入っておくことで、弁護士に依頼した費用が保障されます。
少額訴訟のメリットは2つあります。
少額訴訟を起こし裁判に勝訴して相手が請求に応じない場合、少額訴訟債権執行を申し立てすると差し押さえができるのがメリットです。
差し押さえ強制執行されるため、給料の未払いや家賃の滞納でお困りの方は、検討しましょう。
少額訴訟は1回で審理が終了し、当日に判決がでるため、早期に問題解決が図れます。少額訴訟の上限に該当し、いち早く解決したい場合は活用するべきでしょう。
ただし少額訴訟を起こした際に、相手側が通常訴訟を希望する場合は、通常の裁判になるため注意しましょう。
少額訴訟は費用が安く迅速に判決がおりるメリットだけではなく、デメリットもあります。少額訴訟のデメリットは以下の3点です。
相手側からの申述が認められると、少額訴訟から通常訴訟に移行する場合があります。相手が申述しないようにするには、相手が支払いを滞納している証拠の収集や相手側に不利すぎる提案をしない根回しが重要です。
少額訴訟の判決では、負けた側は控訴できません。債権者の立場で敗訴しても、控訴してお金を受け取るための裁判ができない点が、少額訴訟のデメリットといえるでしょう。
債権者・債務者双方が話し合いで和解しても、債務者に返済能力がなければ、借金は返済されません。債権者に財産がない場合は、強制執行をしても支払われないこともあります。
債務者が支払いできない場合、お金を受け取るべき債権者が泣き寝入りする可能性を含んでいるのが、少額訴訟のデメリットです。
少額訴訟の流れを簡単に解説します。少額訴訟は、次の4つの流れで進みます。
訴状を作成して、被告の住所を管轄する簡易裁判所に提出します。書類提出は郵送でもかまいません。訴状とともに、契約書や請求書などの証拠も提出しましょう。
簡易裁判所で提出された訴状が審査に通ると、第1回の裁判期日が指定されます。期日確定後は、原告と被告にそれぞれ次の書類が送付されます。送付される書類は以下のとおりです。
原告 | 被告 |
---|---|
・口頭弁論の期日の呼び出し状 ・手続き説明書 |
・口頭弁論の期日の呼び出し状 ・訴状 |
書類の送付後、裁判所は被告に対し「答弁書」の提出を要求します。答弁書とは、訴状に反論する意見書の役割を持つ書類です。
裁判所に提出された答弁書は、審査を経て原告側にも届けられます。答弁書を待つ間に、追加の証拠書類の提出を求められる場合もあります。
答弁書を受け取る前に、資料集めや証人の依頼など、少額訴訟の準備を進めておきましょう。
裁判期日は、法廷での審理があります。期日当日は、裁判官・書記官・司法委員と同席し、審理が進められます。
法廷審理の所要時間は、約30分〜2時間程度です。審理で原告・被告が和解する場合がほとんどです。和解しない場合は、審理の終了後にすぐ判決が下ります。
少額訴訟で失敗しないポイントを、2つ紹介します。
少額訴訟は即日に判決が出ます。1回のみの判決のため、事前に準備をして敗訴しないようにしましょう。
少額訴訟を起こす前に、訴訟となる証拠をできるだけ多く用意しましょう。少額訴訟は即日で判決を出すため、証拠の準備に日数がかかるのものは認められません。
録音データやメールのやり取りなどの証拠があると、勝訴に大きくつながるでしょう。即日の裁判所の場で、多くの証拠を提示することで主張にも信ぴょう性が上がります。前もって必ず準備しましょう。
訴訟が起こった経緯を時系列として一覧表にまとめておくと、情報の裏付けになります。どのタイミングで何が起こったのか裁判官が理解する助けにもなるため、裁判がスムーズに進むでしょう。
また時系列でまとめておくと、被告側がどのような異議申し立てがあるか整理しやすく、対策も講じやすいでしょう。証拠と一緒に提示することで、勝訴につながる確率が上がります。
少額訴訟で進めていたにもかかわらず、通常訴訟に移行する場合があります。少額訴訟から通常訴訟に移行するのは、次のケースです。
通常訴訟で確実に勝訴するためには、専門家の力を借りる必要があります。専門家に依頼すると、少額訴訟で受け取る金額より費用が高くなる場合も想定しておきましょう。
受け取るべき額を費用が上回る状態が「費用倒れ」です。費用倒れとなると、本来お金を受け取るはずの債権者側が損をしてしまいます。
勝訴率が8〜9割とされる少額訴訟を使うことで、費用負担を抑えつつ金銭トラブルを解決できます。通常裁判よりも簡単とはいえ、確実に勝つためには事前準備も大切です。
少額訴訟で手間をかけずに債権を回収したい場合、司法書士・弁護士の協力を仰ぐのもひとつの方法といえます。
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1984年京都市生まれ。不動産・相続・会社の「登記」に必要な手続きを代理する専門家であり、若手ならではのフットワークの軽さと様々な職業経験で培った対応力を持つ法務大臣認定司法書士。自身が法律知識ゼロで資格学習を開始した経験から法律の適用や用語の難しさを理解しており、平易でわかりやすい説明を心がけており評価を得ている。
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