役員退職金の相場とは?退職金の算出方法や支払いまでの流れなども解説
- 役員退職金の相場とは?
- 役員退職金の算出方法とは?
- 役員退職金が支払われるまでの流れとは?
「役員退職金はいくらが適当?」とお悩みの企業担当者、必見です。
役員退職金の相場は一般従業員と異なり、会社の業績や役員自身の貢献度などによって支払額が変動します。
この記事では、役員退職金の相場や算出方法、退職金支払いまでの流れを解説します。
役員退職金の手続きを開始する前に把握するべき6つのポイントも紹介するため、退職予定の役員を抱えている企業、退職金の支払い額に悩んでいる担当者は、ぜひ参考にしてください。
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役員退職金の相場【役職別】
以下の表は大企業の役員を対象にした調査結果です。役員退職金の平均支給額や支給額の推移を役職別にまとめました。
参照:SMBCビジネスクラブ
副社長や専務を務める役員は一定期間在任すると、約2,800万円の退職金が支払われています。社長や会長はさらに退職金が増え、長年多大な貢献をした場合は最高で2億円の退職金が支給されていました。
参照:SMBCビジネスクラブ
過去数年間の推移をみると、会長や社長への役職退職金は数年前と比べて減少傾向にあります。全体的に業績が伸び悩んでいる企業が多いと推測できるでしょう。副社長や常務への支給額に関しては多少の変動を除くとほぼ横ばいで、取締役だけが増額傾向です。
役員退職金の相場【業種別】
2014年に日本実業出版社が実施した調査結果の一部を以下の表にまとめました。
引用:日本実業出版社
役員の在任期間や貢献度などを考慮する必要はありますが、製造業とサービス業は役員退職金の支給額が比較的高額です。大企業や業績が上向きの企業で長く役員を務めると、上記よりもさらに多くの退職金が得られるでしょう。
上記のデータは約9年前の調査結果で、現在は退職金の支給額が変動している可能性も十分考えられます。あくまで参考データの1つとして活用しましょう。
役員退職金の算出方法
役員退職金は、退職時の月額報酬×勤続年数×功績倍率によって算出します。役員別の功績倍率の相場を以下の表にまとめました。
功績倍率の平均相場 | |
---|---|
創業者 | 3.0〜3.4 |
代表取締役 | 2.4〜3.2 |
専務 | 2.2〜2.7 |
常務 | 2.0〜2.6 |
取締役 | 1.2〜2.0 |
監査 | 1.0〜1.6 |
たとえば、月額報酬100万円の代表取締役が退任したとしましょう。在任期間が20年で功績倍率を3.0とした場合、役員退職金は100×20×3=6,000万円となります。
優れた功績を残した役員に対しては、役員退職金に功労加算金を加えての支給が可能です。功労加算金は役員退職金×30%が支給額の上限目安とされており、上記の場合は最高で6,000万×0.3=1,800万円を上乗せできます。
1年あたり平均法も計算方法の1つですが使用頻度は低く、功績倍率を使う方法が一般的です。
一般従業員との退職金の違い
役員退職金の支給額は役員の貢献度や実績を評価し、業績とのバランスを考慮したうえで決定します。増収増益の場合は、役員退職金の支給または多額の退職金支払いが比較的認められやすい傾向です。
売上や利益が減少している場合は役員退職金の支給が本当に必要かどうか、株主から疑問視されます。場合によっては従業員のモチベーション低下や離職率向上にもつながるでしょう。
業績の影響力が大きく、タイミングによっては退職金の支給が見送られる可能性もあります。一般従業員の場合は勤続年数に応じて退職金の支給額を算出するため、業績の変動によって支給額が変動する可能性はありません。
役員退職金を支払う流れ
役員退職金の支払いは以下の流れに沿って手続きを進めます。
- 定款または株主総会によって支給有無を決定
- 退職金支給額や支給方法を決定
- 退職金の支給
- 源泉所得税と住民税を納付
- 源泉徴収票の交付
役員退職金に関する規定を定款に記載していない企業が多く、株主総会で支給金額や支払方法を決めるのが一般的です。
1. 定款または株主総会によって支給有無を決定
役員退職金の支給に関して定款で規定している場合は、支給条件や支払方法などを規定内容に沿って支給手続きが進められます。定款で役員退職金の支払いを規定している企業は少ないため、株主総会を開いて役員退職金の支払い可否を決めるのが一般的です。
株主総会では役員退職金の支給可否に加え、退職金の算出方法や支払金額などを決定します。場合によっては株主総会で役員退職金の支給可否だけを判断し、具体的な支給条件は取締役会で決めるケースも少なくありません。
取締役会に判断を一任する場合、株主総会で退職金の金額や算出方法などに関して委任する決議を取る必要があります。
参照:若林税理士事務所
定款には、土地や車への出資など、他に優先して記載する事項が多いため、役員退職金の記載は義務付けられておらず、株主総会で決めるケースが多いです。取締役会は代表取締役や専務など役員が出席して特定の事項に関して意思決定をおこなう機関です。外部の投資家は参加しません。
2. 退職金支給額や支給方法を決定
役員退職金の支給金額は業績や役員の貢献度、役員の在籍期間によって決定します。直近の業績や役員の貢献度に見合わない金額を算出した場合、株主から反発を受ける可能性が高まるため、注意しましょう。場合によっては税務調査の対象にもなります。
退職金の支給方法は一括払いや分割払い、年金形式の定期給付など、複数の選択肢から決めます。
3. 退職金の支給
支給額や支給方法が決まったら、役員退職金が支給されます。一括払いと分割払いのどちらを選択するかによって、手続きの内容が変動するため、早めに準備を進めましょう。
一般従業員への退職金支給とは異なり、上記の手続きが完了しないと役員退職金は支給されません。必ずしも退職日の前に役員退職金が支払われるとは限らないため、事前に役員へ伝えることが重要です。
4. 源泉所得税と住民税を納付
役員退職金には一般従業員と同様、源泉所得税と住民税が課せられます。企業側は役員退職金を支払う際、源泉所得税と住民税を徴収したうえで、退職金を支給しなければなりません。役員退職金を支給した後、徴収した源泉所得税と住民税を納税します。
5. 源泉徴収票の交付
役員退職金を支給した役員に対して源泉徴収票を交付します。退職した役員が確定申告の際に使用するため、忘れずに発行しなければなりません。源泉徴収票を無事に交付できた段階で、役員退職金の支給手続きが完了します。
役員退職金の支払いによる税務上の影響
役員退職金の支払いは数百万〜数億円と高額になるケースが多く、場合によっては欠損金が発生します。退職金の支給金額が決まった事業年度に損金算入をおこない、青色申告をすると最大10年の繰り越しが可能です。
損金算入は役員退職金の支払い額が適切とみなされた場合のみ認められるため、功績倍率の設定や貢献度の見極めを慎重に進めましょう。
役員にとって役員退職金は税務上のメリットが大きいです。役員の在任期間が20年で退職金が800万円の場合、税金は発生しません。役員退職金は退職所得扱いに分類されるため、役員報酬を受け取る際と比べて所得税が半分に抑えられます。
参照:アヤマ・パートナーズ
企業が得た収入から必要経費を差し引き、赤字になった金額を指します。法人税は事業年度の所得額に応じて、翌年度に納税する額が変動する仕組みです。今年度の所得に欠損が生じた場合、翌年に法人税や事業税、住民税の納付義務は発生しません。
役員退職金を支払う前に把握すべき6つのポイント
役員退職金の支払い手続きを始める前に以下6つの内容を整理しましょう。
- 役員退職金を支払う義務はない
- 赤字決算でも支払いはできる
- 功績倍率の設定に注意を払う
- 退職金支払いの方法は複数の選択肢がある
- 事前に役員と何度か話し合う
- 相談先の選定にはビジネスマッチングを活用する
ポイントの内容を1つひとつ解説します。
ポイント1. 役員退職金を支払う義務はない
退職予定の代表取締役や専務がいても、役員退職金を支払う必要性はありません。労働基準法や労働契約法など、労働関連の法律に役員退職金の支払いを義務付ける規定がないためです。
業績への貢献度が低いと判断した役員に対して、役員退職金の支払いをしなかったとしても、法的な罰則は課せられません。
役員退職金の支払いに関して規定がある場合は、取締役委任契約か退職慰労金支給規程に内容が記載されています。どちらにも規定がない場合、これまで役員退職金を支払ってこなかった可能性が高いといえるでしょう。実際、役員退職金の支払いを廃止する企業も増えています。
ポイント2. 赤字決算でも支払いはできる
業績が振るわない場合や赤字決算だったとしても、役員退職金の支払いは可能です。労働関連の法律に役員退職金に関する規定はありません。法的に決められているルールがないため、業績に関係なく役員退職金の支払いに関して企業側が自由に決められる状態です。
業績への貢献度が高い役員や在任期間が長い役員への退職金は、数千万円〜数億円規模になることも珍しくありません。仮に業績が黒字だったとしても、退職金支払いによって赤字になる可能性も十分考えられます。
トラブルの発生を避けるため、役員退職金を支給する前に金融機関へ相談しましょう。
ポイント3. 功績倍率の設定に注意を払う
退職金の支給額を算出する際、功績倍率の数値を相場より大幅に大きな数値で設定するのは避けましょう。役員退職金の支払い額が多過ぎる場合、株主から反発を受ける可能性が高まります。株主総会で否決された場合、役員退職金の支払いは認められません。
従業員のモチベーションや帰属意識も低下し、離職者が増えるでしょう。あまりにも高額な役員退職金を支払った場合、会社の経費として認められない可能性も生じます。経費で処理できないと、法人税の納税額が増えるだけではなく、場合によっては加算税を支払わなければなりません。
さまざまなデメリットが生じるため、功績倍率は上記で記載した相場の数値を設定しましょう。
ポイント4. 退職金支払いの方法は複数の選択肢がある
退職金の支払い方法は現金支給だけではありません。現金での一括振込が一般的ですが、自社株式や社内債を譲渡する選択肢も取れます。役員と企業の間で合意が取れている場合、現金支給に固執する必要はないでしょう。
退職後に役員とトラブルにならないよう、書面で合意を取ることが重要です。現金以外での退職金支給は税務処理が複雑になるため、役員への提案前に金融機関や税理士に相談をしましょう。
ポイント5. 事前に役員と何度か話し合う
役員退職金の仕組みに関して、事前に役員と話し合いを重ねることが重要です。退職後に「必ず役員退職金が支給される」と思う役員も多いです。あくまで株主総会での了承が得られない限り、役員退職金は支給されないとの旨を伝えましょう。
仮に株主総会で否決された場合、役員が退職金の支払いを企業側へ要求しても、企業側は支払いを拒否できます。
あわせて自社の業績や業績への貢献度、在任期間によって、支給額を算出する旨も伝えましょう。支給額や支払方法が決まった後、役員と書面で内容への合意を取り交わすことで、トラブル対策にもなります。
ポイント6. 相談先の選定にはビジネスマッチングを活用する
役員退職金の支給方法や支払金額の算出に悩んでいる場合は、税理士に相談するのがおすすめです。税務のプロへの相談によって、実情を反映したアドバイスや提案が望めます。
税理士事務所を探す場合は、ビジネスマッチングを活用しましょう。ビジネスマッチングとは「仕事の発注先を探している企業」と「新規顧客を探している企業」をつなぐサイトです。地域や業種など必要な情報を入力すると、条件に合致した企業が提示されます。
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まとめ
今回の記事では、役員退職金の相場や算出方法、役員退職金を支給するまでの流れなどを解説しました。役員退職金の金額は、役員の貢献度や在任期間に加え、直近の業績を考慮して決定します。
また、役員退職金を支給するためには、株主総会で支給が可決されなければなりません。一般的には現金振込で対応しますが、自社株式や社内債の譲渡も可能です。
役員退職金の支払い手続きに慣れていない場合、進め方がわからない場合もあるでしょう。早期解決に向けては税理士へ相談するのがおすすめです。「比較ビズ」では、必要事項を入力する2分程度で条件に合った税理士事務所を探し出せます。税理士事務所を探している方は、ぜひ利用をご検討ください。
保有資格:社会保険労務士、行政書士。平成26年より神奈川県で社会保険労務士として開業登録を行い、以後地域における企業の人事労務や給与計算のアドバイザーとして活動を行う。近時はインターネット上でも活発に活動しており、クラウドソーシングサイトやSNSを通した記事執筆や監修を中心に行っている。
役員にそのように高額の退職金を支払う余裕があるのであれば、株主や従業員への還元を行うべきと声が上げることは当然であり、企業イメージの悪化にも繋がるでしょう。そのような事態を避けるためには、企業規模や役職、業績等を充分に考慮したうえで、相場から外れない妥当な役員退職金の設定が必要です。
また不相当に高額な役員退職金は、税務調査で損金への算入が否定されることもあり得ます。確かに節税というメリットもある役員退職金ですが、良い面だけ見て飛びつくのではなく、リスクもしっかりと把握したうえで、適正な金額の設定を行いましょう。
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