擁壁工事費用は単価 × 面積㎡
一般的な擁壁工事は「1㎡(平方メートル)」を基準にした単価があり、設置する面積を掛ければ「ある程度の工事費用」が算出できます。高さ2m、幅10mの擁壁を作る場合「擁壁工事費用 = 単価 ×(2 × 10 = 20)」という計算式が成り立つと考えればいいでしょう。
ただし、立地によって土地の坪単価が大きく変わるため、擁壁工事の単価はさまざまな要因で大きく変動します。
街で見かける擁壁は、それぞれ長さも高さも異なり、一定の高さの擁壁もあれば、坂に沿って斜面になっている擁壁もあります。たとえば、土地を購入する際には、坪単価が同じであれば土地が広い方が価格が高くなるでしょう。
擁壁工事の費用・単価相場
一般的な擁壁工事では、1㎡あたりの単価相場は約30,000円〜50,000円程度だといわれています。たとえば、高さ2m、幅25mの擁壁を作る場合は、下記が費用相場になります。
- (2 × 25 = 50)× 30,000〜50,000 = 150万円〜250万円
この条件に近いおおよその見積もり例を紹介しておきましょう。
工事項目・部材 |
単価 |
数量 |
合計 |
掘削・基礎工事 |
6,000円 / 1m |
25 |
150,000円 |
L型擁壁 |
55,400円 / 高さ2m横1m |
25 |
1,385,000円 |
重機回送費 |
45,000円 |
3 |
135,000円 |
現場諸経費 |
|
10% |
167,000円 |
総額 |
|
1,837,000円 |
工事費用の総額183万7,000円を面積である50㎡で割ると、擁壁工事での1㎡あたりの単価が「36,740円」であることが分かります。単価相場から、費用・単価相場に見合った金額で擁壁工事が施工されているといえるでしょう。
注意:費用・単価相場に近い擁壁工事ばかりではない
費用・単価相場に近い擁壁工事ばかりではないの事実です。工事業者によっては、単価相場を30,000〜130,000円などと幅を持たせた形で公表しているケースもあります。しかも、この単価相場は決して法外だとはいい切れないのです。
擁壁とは?
山の斜面などに宅地を造成する場合は、平坦を作るため上下の土地に高低差が生じます。この崖となる部分の土砂崩れ・崩壊を防ぐために設置・建造される壁が「擁壁」です。
高低差のある土地はもともと崩れやすいうえ、建築される住宅の荷重や雨水の水圧によりさらに崩れやすくなり、建物の倒壊につながる場合があります。こうした事態を避けるため、擁壁は強固かつ頑丈に設置・建造されなければなりません。
そのため、擁壁工事の費用・単価相場が幅広くなる要因の1つになっています。
擁壁工事の種類
強固・頑丈さが要求される擁壁はさまざまな工法で設置・建造されますが、なんらかの形でコンクリートを利用するケースが一般的です。現在の建築基準法に適合する下記の2つが主流です。
間知ブロック擁壁
裏側をコンクリート・割石で固めながら、間知石やブロックを積み上げて作られる擁壁が「関知ブロック擁壁」です。目地はコンクリートやモルタルが充填され、土地の液状化を避けるための水抜き穴設置が必須です。
メリット |
デメリット |
コンクリート擁壁と比較して工事費用はやや安価に抑えられる |
斜めに設置・建造する必要がある |
末広がりになった下面が境界となるため、利用できる土地の面積が減少してしまいます。
コンクリート擁壁(重力式擁壁)
設置する現場で型を作り、コンクリートを打設する擁壁が「コンクリート擁壁(重力式擁壁)」です。無筋コンクリート(鉄骨を入れない)で建造される場合が多く、それ自体の重みで土の圧力を支えるのが特徴です。
メリット |
デメリット |
現場で建造するため比較的自由度が高い |
建造に時間がかかる |
ほぼ垂直に建造できるため土地を有効活用できる |
無筋コンクリートのためやや擁壁が厚くなる |
|
工事費用が高い |
コンクリート擁壁(L型擁壁など)
完成品の擁壁を現場で組み上げていくのが、プレキャストともいわれる「コンクリート擁壁(L型擁壁など)」です。また、RC擁壁とも呼ばれています。
底板に盛られる土の重量も含めて圧力を支えるのが特徴です。
メリット |
デメリット |
鉄筋コンクリートのため擁壁を薄くできる |
RC擁壁の工事費用は重力式擁壁と同様高額 |
工事期間を短縮できる |
|
土地面積を増やしやすい |
|
工期短縮につながるため、現在主流の擁壁工事だといえるでしょう。もちろん、コンクリート擁壁でも水抜き穴の設置は必須です。
擁壁工事の単価・費用はなぜ変動する?
主な擁壁工事の種類を紹介してきましたが、工法によって擁壁工事の単価が変動することがわかるでしょう。つまり大前提として、擁壁工事の単価・費用は、下記の2つの要因で変動します。
- どのような工法で擁壁工事するのか?
- 設置する擁壁の面積はどのくらいか?
ただし、難しいのは「擁壁工事の単価・費用を左右する要因」は、工法・面積のみではないということです。簡単に解説していきます。
擁壁を設置する土地の地盤・状態
擁壁工事の単価・費用にもっとも影響する要因が、設置・建造する土地の地盤・状態です。たとえば、傾斜が緩やかで地盤が安定している土地なら、擁壁の高さ・厚さを抑えられます。斜面が急で地盤が軟弱な土地の場合、擁壁は「より高く・より厚く頑丈に」建造しなければなりません。
自然災害時のリスクが高い地域では、この傾向が一層強くなり、結果的に擁壁工事の単価は高騰します。地盤を安定させるため、補強を含めた基礎工事費用が高くつくのも単価高騰の要因だといえるでしょう。
擁壁を設置する立地条件・作業工程
擁壁を設置する土地の立地条件・周囲の道路環境によっては、作業工程に大きな影響が及びます。
たとえば、バックホー(油圧ショベル車の一種)の回送やコンクリートポンプ車は4トン車が使われるのが一般的です。ただし、周囲の道路状況によっては2トン車しか使えない場合もあります。当然、回送数は単純に2倍となるため、関連費用は膨らむ傾向にあります。
「残土処分費も擁壁工事の単価・費用が変動する」要因
残土処分費も、意外と見逃せない「擁壁工事の単価・費用が変動する」要因です。残土処理できる場所は限られているため、距離が遠ければ処分費用は高くなります。処分する残土に問題がなければ「1㎥あたり6,000円」程度ですが、汚染されている場合は浄化費用が加算されるケースもあり、単価が40,000円という場合も少なくありません。
擁壁の耐用年数は?
設置・建造された擁壁は、コンクリートの場合で約30年〜50年の耐用年数があるといわれています。擁壁を新設する方であれば、メンテナンスの心配は当面必要ないかもしれませんが、すでに擁壁の設置されている土地を取得する場合は注意が必要です。建造から20年以上経過した擁壁であれば、チェックしておきたいポイントがあります。
- 擁壁にヒビ割れや変形がないか?
- 擁壁の隙間が白く変色してないか?
- 擁壁のよう面が濡れている・苔が生えるなど排水の問題がないか?
擁壁の修理・メンテナンスの費用・単価相場
擁壁の補修・メンテナンスには「10,000円〜20,000円 / 1㎡」程度の単価・費用が必要です。やり直し・作り直しが必要なら、かかる単価・費用は「擁壁の新設・建造工事」と同額です。
新設する場合はもちろん、補修・メンテナンスする場合を含め、擁壁工事では「信頼できる工事業者に現地調査・見積もり」してもらうのが鉄則です。
擁壁工事の注意点
擁壁工事の注意点を、以下にまとめました。
- 隣地との境界に注意する
- 地盤が擁壁工事に耐久できるか地盤調査を行う
- 耐用年数と不適格擁壁がないかチェックする
各注意点を考慮しないと、近隣や施工のトラブルに発展する可能性があるため、おさえておきましょう。
隣地との境界に注意する
擁壁を隣地との境界で施工する場合は、近隣トラブルが起きかねません。事前に工事内容を隣人に共有して承諾を得ましょう。
また、擁壁工事では騒音や振動は広い範囲で起こるため、近隣以外に影響がありそうな住民には工事のお知らせのチラシを配布しましょう。
地盤が擁壁工事に耐久できるか地盤調査を行う
擁壁工事を施工する前に、地盤の強度に問題がないか必ず地場調査を行いましょう。擁壁に地盤が耐えられない場合、倒壊や土砂崩れの原因になります。
雨水の重さや擁壁の荷重で地盤沈下のリスクが高い場合は、地盤改良の費用も追加でかかることに注意しましょう。
不適格擁壁がないかチェックする
不適格擁壁がないかチェックしないと、安全面が担保されません。建築基準法が制定される以前に、施工された擁壁は安全性を証明する検査済証がないためです。
不適格擁壁に当てはまる擁壁の主な種類は、下記のとおりです。
- 二段擁壁
- 大谷石(おおやいし)積み擁壁
- 空石積み擁壁
建築基準法によって違法になっているため、作り直しが発生するでしょう。
不適格擁壁とは?
1950年に制定した「建設基準法」に違反した擁壁のこと。建設基準法が施行する前かつ、安全性を証明する検査済証がないものも該当します。
擁壁工事の費用を抑えるには?
規模(面積)・工法、設置する土地の立地条件・地盤状態など、さまざまな要因で単価・費用が変動する擁壁工事ですが、できる限り工事費用を抑えたいのはだれであっても同じです。
擁壁工事には単価・費用を抑える方法の基本となるポイントを簡単に紹介していきましょう。
元請の工事業者に依頼する
できる限り擁壁工事の費用・単価を抑えたいなら「元請けの工事業者」を自ら探し、直接依頼するのがベストです。仲介業者に依頼すれば、一次請け、二次請けなどの下請業者がぶら下がることになり、余分な「仲介手数料」が掛かってしまいます。
住居・オフィスを新築するのであればハウスメーカー。土地を取得するのであれば不動産業者。面倒な擁壁工事が必要になれば、依頼先を一元化してまとめたいと考えるかもしれません。
しかし、許認可が細分化・複雑化しがちな建設業界は、それぞれの工事の守備範囲が異なるのが現実です。仲介手数料は、工事規模に応じて数10万円、ときには数100万円に達することもあるでしょう。
複数の工事業者の見積もりを比較する
実績豊富な信頼できる工事業者を少なくとも3社〜4社ピックアップし、同じ条件で依頼した見積もり内容を比較検討することが重要です。元請けの工事業者であっても、擁壁工事の費用・単価は一律なわけではないためです。
ホームページなどで実績や施工例を公開する工事業者も少なくないため、条件の近い施工実績を持つ工事業者をピックアップしていくといいでしょう。
下記が、工事業者を比較検討する際のポイントです。
- しっかりと現地調査した上で見積書を提出しているか?
- 見積書が詳細な工事項目ごとに金額が明記されているか?
- 疑問点を誠実かつ分かりやすく説明してくれるか?
大規模な擁壁工事なら助成金を活用
高さ2メートルを超えるような大規模擁壁工事が必要であれば、各地方自治体が実施する助成金制度を利用できるかもしれません。
現場の所在地である市区町村役場に問い合わせてみる価値はあるでしょう。ただし、申込期限・定数などの制限が設けられているため、常に実施されているわけではありません。
たとえば、東京都港区では「がけ・擁壁改修工事等支援事業」という名目の助成金制度を実施していました。
概要・要件 |
個人・管理組合・中小企業を対象に、新規擁壁工事・擁壁建て替え工事の助成金を支給 |
補助対象 |
建造後の高さが2メートルを超える擁壁であること |
補助金額 |
助成対象工事費用の1/2以内。土砂災害警戒区域外の上限:500万円、区域内の上限:5,000万円 |
施主自身が手続きを進めることが原則ですが、委任状を用意すれば工事業者が手続きを代行してくれる場合もあります。助成金の活用を提案してくれるか?申請手続きのサポートを提供してくれるか?なども、工事業者を判断する際のポイントになるかもしれません。
擁壁工事に関してよくある質問
まとめ
擁壁工事の費用・単価相場の目安を紹介するとともに、工事単価が変動する要因、擁壁工事の費用を抑える工夫なども解説しました。
現場ごとに条件の異なる擁壁工事では「だいたいの費用目安」を算出するのみでも現地調査が欠かせません。現地調査をしたうえで、詳細な見積書を提出してくれる優良な元請け工事業者を、自ら探すのが重要です。
しかし、優良な候補先をどのように探せばいいのか、検討がつかないという方も少なくないでしょう。「比較ビズ」なら、必要事項を入力する2分程度の手間で、優良な外構工事会社をスピーディーに探せます。外構工事会社の選定に迷うようなことがあれば、是非利用してみてください。
監修者のコメント
代表 向田 良二
住宅業界・設計事務所にて販売から設計・工事管理までを15年経験する。 2021年建築事務所RDAを設立。広い知見を活かした建築設計・調査・コンサルティングを 軸に活動中。
擁壁工事の価格の算出が単純ではない理由は、施工する場所・擁壁の長さや高さ・立地条件による仮設費変動等、記事に記載がある通りすべての項目を複合的考えてに金額を算出しなければならない点と全く同じ条件や大きさのものが無い点だと思います。
実際に擁壁工事の見積もりを依頼する際は受注者に現地を確認してもらうのが一番トラブルが無くおすすめです。現地での確認が難しい場合は、出来る限りの詳細な情報や画像があるとスムーズに見積もりが進みやすくなると思います。
また擁壁工事の補足としては、傾斜地やがけ地に建物を建てる際に構造方法や構造耐力が関連してくる場合がある点です。傾斜地やがけ地はその部分の高低差の度合いによって建物が対象地に建てられかの可否に関わってきます。
擁壁工事の適切な構造方法や構造耐力が認められる場合は傾斜地やがけ地に接近して建物が建てられる場合があるので合わせて覚えておくと良いかと思います。